魔法使いの最初の魔法
「此処が事件現場だ。」
藤田氏に連れてこられた場所は、一見ただの住宅街のように見えた。
だが、よーく見ると辺りの住宅には所々鋭利な刃物によるものと思われる切り傷があった。
「事件の内容は?」
翠さんがそう問うと藤田氏はその切り傷を抜刀したサーベルで示した。
「妖による傷害事件だ。被害者は皆するどい刃物で複数箇所切りつけられてる。」
「何故、妖の仕業だと警察は思ったのかしら?」
何者かによって切り裂かれただけでは妖だと断定することは叶わないだろう。
「被害者は皆、突風が突然吹き、気が付いたら自分を含め辺りは切り裂かれていたという。」
その言葉に納得した。
そのような行為をする妖は鎌鼬(かまいたち)しかいないだろう。
しかし、鎌鼬は本来…害のある妖ではないはずだ。
伝承によると、鎌鼬は両手につく鎌で無意識に辺りを傷つけてしまうとあったが、それと同時にすぐ薬を塗るため痛みは感じないという。
ならば、何故鎌鼬は襲ったのだろうか…と考えを巡らせているといつの間にか翠さんが間近で私を覗きこんでいた。
あまりの近さに思わず後ずさる。
その様子に藤田氏は、こめかみを押さえため息をついた。
「咲耶ちゃん、皺が寄ってるわよ?」
「そ、そうですか?」
そうよ、と言われたあとにデコピンをされた。うっ…地味に痛い。
「娘、何を考えていた。」
凄味のかかった顔で藤田氏が問う。
そんなに、考えている顔をしていただろうか。
「…顔に出ている。」
今度はそうボソリと言われてしまった。
その様子を翠さんがにこやかに眺めている。
仕方なく、私は先程考えていたことを口にした。
「……成る程。だが何故、お前はそのようなことを知っている?」
「昔、なんか古い書物で読んだんです。」
家にあったとは流石に返さず、曖昧に答えるとそのような類の書物は一般には出回っていないと返されてしまった。だからこそ、何処で知ったのか…と。その質問に思わず閉口してしまう。
その時、突風が吹いた。
「藤田さん、後ろ!」
翠さんの鋭い声が飛んだ。
藤田氏は瞬発的にサーベルで受け止めていた。
相対する鎌鼬の姿が私にも視えた。
一匹視えたが気配は複数感じた。
気配の元を辿るとそこには数十匹の鎌鼬がいた。
その光景に翠さんが息を呑む。
「複数匹による犯行…ね。」
翠さんは視えるが退治することは出来ないのだそうだ。
藤田氏だけで全てを倒すのは無理だろう。
私は前もって準備していた護符を懐から出し投げ剣印を結んだ。
「禁!」
護符から眩い光が溢れ、鎌鼬が怯んだ。そのすきに籠目印を結び呪を放つ。
「臨めるも兵闘う者 皆陣列れて前に在り!」
すると鎌鼬は透き通ったあとに姿を消した。
ふぅ、と息を吐くと首元にヒヤリとした感触があった。
恐る恐る首を横に向けるとサーベルの刃が接していた。
「娘、貴様何者だ。」
「……タイムスリップした陰陽師です?」