リセット無効の運命を






私は神楽坂に来ていた。
よくアド街○○天国という番組で取り上げられていて、ずっと行ってみたいと思っていた。

この街には猫が多く暮らしている。
何を隠そう、私は無類の猫好きなのだ。
あのモフモフはなんともっ…
何匹かの猫とスキンシップをとり、写真に納めながら町を歩いていると前の方に毛並みの良い三毛猫が居たのだ。

「三毛猫…!」

今日撮った猫はトラ猫から始まり、シャム猫、黒猫、キジ猫、サビ猫と多様な猫達だったが三毛猫とはまだスキンシップをとっていない。

野良猫だが、しなやかな毛立ち…そして凛々しい眉!
あのような三毛猫は初めて見た。
猫の中では私は三毛猫が一番好きなのだ。
一見、サビ猫のように見えるがよくみると白い靴下を履いており胸毛の白いモフモフがなんとも堪らないっ…!

「あっ、待って!」

猫は毛づくろいしていたが咲耶の気配を感じたのか一瞥したあとに路地裏にはいった。

咲耶は慌ててその猫を追いかけた。
神楽坂はメイン通り以外の路地はとても複雑だ。
三毛猫を追いかけているうちに気がつくとお祭りの準備をしている公園に出た。
足を止め、公園の様子を伺う。

「今日は縁日なのかな?」

せっかく来たのだ。
三毛猫を捕まえたあとにぜひとも遊んで行こう…そうしよう。
今日はりんご飴を食べたい気分なのだよ…
祭りが始まった訳ではないので人が疎らなぶん、猫は見つけやすかった。
突き当たりで三毛猫が此方に背を向けながら毛づくろいしていた。
足音を立てないように慎重に猫なた近づく。
そして、後ろから猫の脇に手を入れて捕まえた。
やはり、ふわふわだ。
捕まえて分かったがこの三毛猫はどうやらメスらしい。
彼女を追いかけっこしている間に日も暮れ始め、お祭りが始まり始めたようだった。
先程、りんご飴の屋台の場所を確認しておいたので大人しくしている三毛猫を片手にりんご飴を頬張った。
口に含むと甘さがジワリと広がる。

りんご飴を舐めながら、ふと空を見上げると日は完全に暮れ月が爛々と公園を照らしていた。
今日は満月なのか、と思うと同時にその赤みを帯びた月に違和感を覚えた。
満月は人を狂わす、いつか祖父がと言っていたを思い出し身震いをした。

悪い予感というのは当たるものだ。
私の血筋を考えれば、それは尚更のこと。
早々に帰ろうと思い、猫を抱えながら出口の方へと足を向けた。
先程からこの猫、逃げようとしないがお持ち帰りして良いのだろうか。
そう考えていると出口前の広場が騒がしかった。
真ん中にはシルクハットを被った奇術師らしき男が大衆の注目を集めていた。

「マジックねぇ…」

気にはなるが、早く家に帰りたい気の方が勝る。
広場から踵を返そうとしたときに「そこのお嬢さん!」という言葉とともに多数の視線が背中に刺さった。
恐る恐る振り返ると例の奇術師が良い笑顔を此方に向けていた。

「…私、ですか?」

「うん、そうだよ。さぁさぁ、この箱に入ってごらん。」

「いや、でも私は帰るんで…」

そういうと奇術師は困ったように口元をくにゃりと曲げた。

「ほんの数分で終わるからさ…」

観客の期待に負け、ゆっくりと箱へと歩みを進めた。

仕方なく彼女を抱えたまま奇術師が指示した箱に足を踏み入れる。
身体がすべて収まると、ゆっくりと箱の蓋が閉まり中が真っ暗になる。
箱の中で三毛猫の瞳だけが爛々と輝いていた。



____ご覧頂きます、この箱。実は入れたものをこの世から消してしまうという摩訶不思議な箱でございます。

____この箱に入るとあら不思議!ワタクシが3秒数える間に綺麗さっぱり消えてしまいます!

____それでは、3!2!1!



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