三日月を揺らす硝煙






現代の陰陽師は術以外にも多種多様な技を持っている。それは人の数だけあるといっても過言でなく、私も例に漏れずそんな一人である。懐から出したのは、鈍色に光る小銃。これが、私が最も得意とする武器だ。人より霊力が多い私は、それを余していることがよくある。実際、術を発動するのにも霊力は使うが唱える過程で一部は雲散する。その無駄を無くすのが、この小銃だ。この銃に球はない。球となるのは、自分の霊力で、それをそのまま圧縮し込めることで、より強い霊力の弾丸を直接撃ち込むことが出来る。

その小銃を片手に弄りながら、壁に寄りかかり依頼者からの依頼を思い出していた。依頼内容は花街へ向かう道の途中にある柳が夜な夜な青く光っているという。その不気味な現象をどうにかしてほしい、というのが今回の依頼者である男性からのものだった。要は自分が安全にその道を通って逢引をしたいということなのだろう。

私が万屋を開業してから、既に二年が経過しようとしていた。宣伝などはしておらず、口伝のみでじわじわとその評判が広がっていったが店の軌道は安定に乗っている。万屋といっても、その前に妖専門の…がつくのだが。一応、妖羅課公認であるため藤田氏からたまに呼び出しがかかることもあるので、以前に比べたら良好な関係を築けていると思う。

そう過去に思い耽っていると、不意に青い光が柳に宿った。

「あれは…青鷺火」

銃をホルスターに戻した。
青鷺火とは鷺の体が青く発光したことにより、鬼火のように見違える人が多い。が、実際は鷺である。ただし、何故その体が発光するのかは現代でも分かっていない。
柳の根元まで行き、左手を掲げると鷺がその手に降りてきた。人懐こいようだが、さすがに鍵爪が既に食い込んで痛い。

「お前、なんで毎晩のようにここに居るの?他のところへ行きなさい。」

そう言うと、鷺は一声鳴いた後に羽ばたいて行った。

害がないならば祓うことはしない。藤田氏は妖をみた瞬間、いや正確にはサーベルに写った、か?すぐさま殺しに行こうとする。妖にも、良いやつと悪いやつが居るのだから片っ端から殺すなんていう真似は野蛮だと私は思うけど。

「これで、お仕事は終わり!」

さて、帰ろう…
この時代は本当に妖が多い。日中も見にくいが、多くの妖が浮遊している。朧の刻になると、その実体がはっきりし、人に悪さをしだすものもいる。

「今日は下弦の月か…。」

ぼんやりと空を見上げ、そう一人心地に呟くとチリン、という鈴の音が響いた。

「…ミケ?」

灯(あかり)の少ない公園から聞こえた気がして、踏み込むと急に明るくなった。そう、私が二年前にこの時代に飛ばされた時のように。

「…キミは本当にお利口だね。」

そう言いながら、ミケの背を撫でる奇術師がそこに居た。

「あなたは、あの時の!」

私が飛ばされる状況を作り出した、あのシルクハットがそこには居たのだ。しかも腕にミケを抱いている。

「やぁ、お嬢さん。また会えて嬉しいよ。キミはこの時代に上手く馴染んだみたいだね。」

彼女もキミのように馴染んでくれると良いんだけど、と言葉を続けた。馴染みたくて馴染んだのではなく、馴染まざる負えなかったというのに楽観的なことを言ってくれる。そもそも!全ての元凶はお前だろ!とあまりのことに、上手く言葉が出ない。……待てよ、


「彼女って誰?私以外にこの時代に来た人間が居るわけ?」

「キミに来てもらったのは全て彼女のためだからね。さぁ、キミもそろそろ飼い主の元に戻りなよ。」

にゃあ、と鳴いたミケは奇術師の手から降り私の足元に擦りよった。
それを確認したあとに奇術師は指をパチリと鳴らして姿を消した。

「もしかして、奇術師も人間じゃなかったの…?」

先ほどまでのお祭り騒ぎも全て消え失せ、静寂が広がる公園がそこにはあった。



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