水面揺れる、狭間揺らぐ(上)

部下である風見が、今抱えている案件でテロを起こしそうだと監視している対象がポートマフィアという組織と接触する情報を入手したらしい。ポートマフィアに関しての情報を公安で探しても閲覧制限がかかっていることを不審に思った風見は、一番上の上司である藤原さんに聞いたらそれ以上踏み込むな、と言われたらしく結局俺に聞いて分からなかったら諦めようとして一連の話を報告しにきたようだ。

「…ポートマフィアか。」
「降谷さんは何かご存知ですか?」

そういう風見に対し、心当たりがない訳ではない…と言葉を返す。この間のベルツリー急行でベルモットはその言葉について触れていた。






『バーボン知り合いなの?彼女達は横濱を拠点とするポートマフィアよ。』
『ポートマフィア?』

彼女達の姿が消えてしまった後に、その言葉を繰り返した。以前からその名詞を聞いたことがないわけではなかった。だが、どれも飛躍したうわさ話ばかり。

『横濱を縄張りにしているマフィアよ。龍頭抗争で生き残った屈強な闇組織、おかげで警察も迂闊に手を出せないみたいね。』
『警察も手を出せない組織ですか。確かに僕も噂程度しか聞いたことないので、ありがちな都市伝説かと思っていましたが、実在したんですね』
『まぁ、警察って言ってもあの横濱だから管轄は軍警のようだけど…』

軍警は一般的な警察とは指示系統が違い、防衛省の傘下の組織だ。同じ警察といっても、その色合いは違う。そんな軍警が最も幅を利かせているのが港湾都市横濱である。そのため、県警も横濱では肩身が狭いらしい。ベルモットがそれ以上ポートマフィアに関して話すことはなかった。

「ポートマフィアは横濱をシマにする組織らしいが、」

と、そこまで口にして風見が俺の後ろに視線をやって固まっていることに気付いた。不審に思い、振り返れば先ほど話題に出た藤原さんが居た。

「はぁ……降谷くん、君もか。」

藤原さんは仕事に関しては厳しいが、普段は柔和でこの公安でも親しみやすい人柄をしている。また、本人が権力を振りかざさないことも相まって”藤原さん”と皆に呼ばれているのだ。風見が慌てて「降谷さんは悪くないんです。」と弁明するが、それを手で遮ぎりこういったーーーー「2人とも、このあと時間あるか?」と。今日はもうトリプルフェイスの安室透もバーボンも用はなかったから、二つ返事に頷いた。風見も同じく、だ。

夜10時を回った頃、藤原さんに連れてこられたのはレトロな雰囲気の珈琲店であった。店のマスターと何やら言葉を交わすと奥の方に案内された。

「藤原さん、何故この店へ…?」

風見がその疑問を口にした。

「君たちが知りたがっていたポートマフィアについて知る協力者に来てもらったんだよ。」

藤原さんほどの人物になれば、ポートマフィアのことを知る協力者もいるのか…と感心していると、辿り着いた奥は個室になっていて、確かに密談するにはもってこいであろう。

「待たせてしまって、すまない…」

ドアをスライドして藤原さんが声を掛けると、中にいた人物は「いいえ。」と言った。その声に何処か聞き覚えがあったが……思い出せなかった。藤原さんが先に入り、風見がその後を追う。

「やはり、そうでしたか。」

中に入ってその女性から掛けられた声で相手がそこに居た人物が誰であったかを理解した。

「幸田、朔…」

俺のその言葉に藤原さんが「おや、君たちは知り合いだったのか。」と言った後に座るように席を勧められた。彼女に問いただしたいことは山ほどあったが、あれから常連であるという幸田朔がポアロに訪れることはなかった。

「知り合いなら改めて説明する必要はないかもしれないが、こっちが降谷でそっちが風見だ。」
「お二人とも藤原さんの部下の方ですよね?」
「流石だ、そこまで調べたのかい?」
「まぁ。」

そう会話を交わす2人に何が何だか分からない。目の前の彼女は俺が公安の人間であることを知っていたのか?少なくとも、安室透としてポアロで知り合った時点では知り得なかったはずだ。

「風見さんは初めましてですし、改めて自己紹介しますね。幸田朔と申します。」

ぺこり、と礼をした彼女は笑みを浮かべそう言った。その何処か余裕ある態度がどこか鼻に付く。言い募りたくなるのを藤原さんの手前抑え、彼女へと言葉を投げた。

「事務職の仕事についていると言った貴女が何故…」

その言葉に藤原さんが「事務職か、確かに朔ちゃんは事務職のエキスパートだから強ち間違ってはないのかもしれないね。」と微笑んだ。

「でしょう?えーっとですね、」

目の前の女は居住まいを正し、こちらに向き直した。

「私のお仕事は内務省異能特務課のエージェントです。最近までは某組織に秘書として潜っていたので、どうやら他組織には抜けたことが伝わってないみたいであのようことに…いや、でも某組織の報復怖いので周知さるなくて良いんですけどね。」

某組織というのはポートマフィアのことで、他の組織というのは俺がいる黒の組織のことを指しているのは容易に想像出来る。だが、その前に彼女はなんと言っただろうか。

「内務省だと?今の日本に内務省は存在していないはずだ。」

今まで黙っていた風見も同じことを考えていたようで、そう口にした。内務省が存在していたのは戦後すぐまでで、その集中しすぎた権力のためにGHQによって解体された。そして代わりに作られたのが、総務省・警察庁・国土交通省・厚生労働省である。そのためにこれらの省庁を旧内務省系官庁という。だから現代に内務省は存在するはずがないのである。彼女はその言葉に困ったような顔をして、藤原さんに視線を投げる。それに応じるように藤原さんが首を振った。

「確かに内務省は存在していない、表向きにはね。公安でもそうだが、上層部のみその存在を知っている。勿論、2人ともこれは他言無用だ。」
「……私達、異能特務課の仕事は国内の異能者を統括する事と異能組織犯罪を取り締まることです。といっても、そもそもエージェントの数が圧倒的に足りないので後者に関しては組織的機能をあまりしていないんですけどね。」

異能者、という言葉もポートマフィア同様にどこか都市伝説のように思っていたが、存在していたのか。と1人心地に思う。しかも、それを統括する政府機関があるとは。しかし、同時にそういった事件が表向きにならないから俺たちは都市伝説のような幻影として捉えるに過ぎないのだろう。

「つまり、ポートマフィアには異能者が居るということか?」
「えぇ、流石です、安室さん。いえ、今は降谷さんですかね。」

その言葉に確信を持つ。彼女はポートマフィアの異能者を監視するために秘書として潜入していたのだろう、と。そして、それらの情報を合わせるならば暗に情報を開示することで、風見が抱える今回の事件でポートマフィアに接触をしないようにという釘を打ったのだ。彼女も俺が察したことに気が付いたようで視線がかち合った。

「ポートマフィアと異能持ちでないあなた方が下手に接触しても、事態は悪くなるだけなので忠告を。」
「なんだと…!?」

勿論その言葉に風見が声を荒げた。公安を誇りとしているから、その態度は当然だ。しかし、わざと挑発するような物言いにも理由があるのだろう。風見を手で制した。

「…幸田さん、貴方も異能者なんですね?そして、異能特務課のエージェントは皆異能者である。だから人手が足りないのではありませんか?」
「………。」

彼女は俺の言葉に黙り込む。きっと図星だったのだろう。公安とて人手が足りているとは言い難いが、それでもなんとか回している。

「こらこら、降谷くん。あまり朔ちゃんをいじめないでくれるかな?私が親友に怒られてしまうよ。」

困った彼女に藤原さんが助け船を出すが、やはり風見が現在進めてる案件について引くことはしたくない。隣で風見が小さく「降谷さん…」とかすれ声で呟いたのが耳に入る。

「その通りですよ。だから、あなた方を護衛する人員を割く余裕はないからご忠告してるんです。犠牲者を出す前に。それか、最悪私に連絡して下さい。そうしたら、ポートマフィアに対する対策を練りますから」

一瞬間間があったあとに、彼女はため息を吐きながらそう言った。つまり、俺たちが勝った…ということになるのだろうか?彼女がまさか譲歩案を出してくるとはあまり思っていなかったので、驚き藤原さんを見ればそれは藤原さんも同じだったようで。

「感謝する。」

彼女にそう言った。
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