何とか回収されたようで-case.赤井秀一

何とか-何とか回収されたようで-case.赤井秀一


目が覚めてまず視界に入ったのはシミ一つない綺麗な白い天井であった。視界が霞んでいるが、瞬きをする間にそれはなくなる。腕を伸ばせば最後に見た血塗れのものではなく清潔な包帯が巻かれていた。体をゆっくり起こした時腹に痛みが走り思わず顔をしかめれば、ガラッという音ともに病室の扉がスライドしてライというコードネームを貰っていたニットが特徴的なFBIがそこにいた。

「大丈夫か?」
「あんまり……腹いたいですし。」

おもむろに置いてあった椅子に座る彼を眺めたが、悠長に眺めるには疑問が多すぎる。

「ライさんが私を拾ってくれたんですか?」
「あぁ。あのまま放置して公安に連れてかれたら君も大変だろう?あと、俺の名前は赤井秀一だ。」
「あかいしゅういち、」

思わずその言葉を復唱すれば、「本当に何も知らないのか」と言われた。あの組織が警戒する赤井=ライだったのか。確かにどちらもFBIのノックではあるが、あの組織はアホみたいにノックに潜入されていたからてっきり複数のFBIが潜っていると認識してしまっていた。大体、私が下っ端を脱しコードネームをもらう頃には既に居なくなっていたから面識もなかった。

「……此処は?」
「FBIの息がかかった病院さ。」

その言葉に「ですよねー。」と相槌を打つ。体を置き上げているのが辛かったからベッドに備え付けられていたボタンを押し、ベッドが上がるようにした。その様子に驚いたように目を見開く赤井さんは少し面白かった。

「慣れているんだな。」
「まぁ、HLでは私も割と死にかけていましたから。基本的にはサポートなんですけど、人手が足りないと前線に駆り出されるんで。」

といっても、怪我で入院というよりは術式の媒介として血を使いすぎて…というのが専らではあるのだが。そう苦笑いすると、再び病室の扉がスライドした。入ってきたのは白髪に髭を蓄えた何処か紳士的なおじ様で。何者なのだろうか、と思っていれば目の前の彼に声をかけた。

「彼女の引き取り人としてエイブラムスが来てくれるそうだ。」

その言葉に驚かない方がおかしいだろう。有難いが、しかしなぜエイブラムスさん?そう考えているとおじ様は少し微笑み自己紹介をしてくれた。赤井さんの上司でジェイムズ・ブラックさんというらしい。

「君の所属する組織との直接の繋がりが我々はないのでね。だが、エイブラムスとは個人的付き合いがあったから彼に連絡したら快く引き受けてくれたよ。」
「ありがとうございます。」

言われてみれば、そもそもFBIはHLになってから撤退しており、あそこにいるのはNY市警だけだ。ということは、日本で何か災いが起きることになるわけだ。つい先日もHLに行った際に飛行機が落ちたというからエイブラムスさんも相変わらずだ。

「君の黒の組織での扱いだが、どうやらベルモットがあのヘリコプターによる銃撃により死亡したと報告したようだ。」
「そう、ですか…おねえさんが。」

元々、おねえさんは全て分かっていて私を組織に招き入れたのだろう。スプモーニを始末するために。それならば、他の下っ端に比べて好待遇なのも頷ける。重要なのは無事にスプモーニを私に殺させることなのだから。もっとも、あのバケモノが人間に殺せるとは思っていなかっただろうし、増長する彼女を組織から追い出すことに重きを置いていたのかもしれないが。組織内で私が死んだことになっているならば、私の顔を知っている幹部連中と鉢合わせでもしない限りは大丈夫か。どのみち、またHLでの仕事漬けになるのだろうからそのような心配そのものが必要ないかもしれない。

「良かったです。私うっかり組織に入った時に本名名乗ってしまったのでどうしようかと思っていたんです。」

はは、と笑えば二人から何処か呆れたような視線を貰った。すみませんねー、詰めが甘くて!

「ところで、ノースホイールを止めたのは君なんだろう?見つけた時に君の下まで草木が生い茂っていた。一体どんな技を使ったか聞いても良いか?」
「緑男(グリーンマン)ですよ、地の王アマイモンの眷属の。私は複数の悪魔と契約による使役を出来るようにしているので。」
「………悪魔、か」
「実害はありませんよ、よっぽどのことがない限り。契約している悪魔は私の支配下に居ることになりますし。」
「術式による銃使いとはそういったことも出来るのか。」

その言葉に曖昧に笑う。
昔はそちらが本職だったのだ、と。しかし、代替わりするごとに術師としての血は薄くなり力は衰えるばかり……そこで術式以外にも戦う術を、今の原型を編み出し始めたのが我が祖父だ。すでにバケモノの怨みをだいぶかってしまっていたから牙狩りを辞めるという選択肢はなかった。そして今の形にしたのが父である。

「ところで安室さんはどうなりました?」
「彼なら無事だよ。ノックリストも結局漏れなかったから安室君の疑いもじきに晴れるだろう。」
「なら良いんです。」

それだけが心残りであったから、それさえ分かれば良かった。もう安室さんに会うこともないだろう。結局彼の本当の名を知ることはなかったけど。


そして私はHLでの生活に戻ったのだった。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -