何とか回収されたようで-case.安室透

何とか-何とか回収されたようで-case.安室透



全ての片が付いて部下に指示をある程度出していた時にキュラソー以外での負傷者の情報が入り込んできた。倒れていた場所が場所だったことから発見が遅れたようで、急いで現場に向かえばまだ彼女はそこにいた。

「ベリーニ、」

なぜ、お前がここに居るんだ…まず浮かんだのはその一言だ。側によりその奇妙さに眉を顰める。まるで彼女を起点とするようにノースホイールの動きを止めた草木が生い茂っている。そして彼女が倒れているそこには花まで咲いているではないか。しかし、その草は青々と生い茂っているわけではなく彼女から流れる血によって赤黒く染まっている。それでも、彼女は生きていた。風見に彼女を警察病院に指示を出しその場を離れる。安室透として彼女の付き添いをすることも出来なくはなかったが、あのベルモットのお気に入りであるベリーニを警察病院に運ぶのに供をする訳にはいかない。






別れ際に組織を抜けると言っていたことと今までのベリーニの行動から推測するに、彼女も俺と同じノックであることは間違いない。そしてその目的はおそらくスプモーニを消すこと。そう考えると彼女は正義側の人間ではない可能性が明らかに高いだろう。探り屋と呼ばれた安室透であってもベリーニの情報は秘匿されているため得ることが出来なかったのは既に実証済みである。それは、ベルモットが行なったものか、はたまた彼女自身が、いや彼女が属する組織が行なったのか分からない。唯一の手がかりはベルモットとHLで出会ったというその言葉。

「……ヘルサレムズ・ロットか。」

元ニューヨークであり、超常日常・超常犯罪が飛び交う「地球上で最も剣呑な緊張地帯」と一般に言われているが、それを真に受けている人間は少ない。それは自身にとって遠いところで起こっている事象であり、直接の影響があるわけではないからだろう。俺とて実際に目にしたわけではないから所詮噂程度にしか思っていない。

「降谷さん、ベリーニの持っていた携帯から彼女の身元引受人と名乗る人物へ連絡が繋がりました。」
「それは本当か!」
「はい、アメリカからこちらに来るとのことだそうです。」

ベリーニが犯罪者であるならば、その時は身元引受人諸共捕まえれば良い話だ。







「…………安室さん?」

意識が覚醒して最初に目に入ったのは、無機質な白い壁とスーツに身を包んだ安室透が眠りこけている姿であった。そもそもスーツ姿というのが物珍しい。あのカーチェイスをした日もスーツであったが、公安の仕事の時のみ身に付けるのだろうか?こうして彼が無防備に眠りこけている姿など今まで見たことなかった。察するに此処はただの病院ではなくキュラソーが一時収容されていた警察病院で、きっと病室の外も公安の人間が見張っているのではないだろうか。自分が助かったことに関しては素直に礼を述べたいが、今後の番頭からのお小言を考えると少し頭が痛くなってきた。はぁ、とため息を吐いたその時ノックと共にガラッとドアが開いた。

「降谷さん、ベリーニの身元引受人が到着しました。」

と、言い病室に入ってきた眼鏡をかけた若い男性は彼の部下なのだろうか。こちらを見てアッと声をあげると同時に安室さんが目を覚ます。

「ベリーニ、目覚めるのが遅いです。」

起きた早々に嫌味か、なんて考えていれば彼の部下を押しのけて見覚えがある顔が制止を振り切って病室に入ってきた。

「朔っち〜〜!」
「…あねさん、」

勢いよく抱きついてきた彼女に顔を引きつらせた。今が夏ということもあってか、トレードマークといえるロングコートを着ていないし、普段眼帯をつけている片目は長い髪によって隠されていた。感動の再会を考慮してか安室さんとその部下の姿は部屋からなくなっていたが、外で聞き耳を立てているか、この部屋に盗聴器が仕掛けられている可能性が高い。そうなるとライブラに関係する固有名詞を出すわけにはいかず。K・Kのことも名前で呼ぶことは控えるべきであろう。

「もう、心配したのよ!?長期任務で長い間借り出されて一向に戻ってこないし!クラっちも心配してたんだから…」
「……私も早くHLに帰りたかったけど、なかなか尻尾表さないんだもの、」

あの血界の眷属、という言葉は飲み込んだ。我らが優しいリーダーに心配をかけるのはとても不本意ではあるのだが。となると、今回の依頼を受けたスティーブンへの恨み言を言いたいところだが…

「手続きが終わるまで私はこっちに居るから安心しなさい、朔っち。それと私達はCIAの人間ということになってるけど、適当なとこではぐらかしてから脱出しなさい。」

外で待ってる御仁はどうやらやきもきしているみたいだし、と耳元で囁いた後K・Kは部屋を出て行ってしまった。入れ替わりで安室さんが戻ってきた。ところで、身元引受人がK・Kということだが何故CIA所属になったんだ……

「では、ベリーニ貴女には聞きたいことがたくさんあるのですが。」
「もう黒の組織を抜けたんでそのコードネームで呼ぶのやめてもらえますか?ただでさえ、名付け親がスプモーニだったのが嫌なんですから。」

眉を寄せながらそう言えば、相変わらずだなといった笑い方をされた。相変わらずで悪うございました…

「ですが、菅原朔というのも偽名なんでしょう?」
「いや、それ本名ですよ。うっかりベルモットに初対面でそう名乗ってしまったので。」
「はぁ…貴女という人は。それでよく今までノックが出来ましたね。」
「私は貴方がたと違って組織の内情を探ってる訳ではありませんから、ボロがでる場面が少ないんですよ、降谷さん?」

まさか、ここまできて呆れられるとは思っていなかったので先ほど部下に呼ばれていたその苗字を意趣返しに呼べば、ムッとした表情をされ思わず笑む。どちらが子どもだか…

「私だってちゃんと名乗ったんですから、名前ぐらいちゃんと教えてくれも良いんじゃないですか?」
「……降谷零だ。これで良いだろう?さて色々と質問に答えて貰おうか。」
「はーい、私で分かるものならお答えします。」

K・Kが置いていったミネラルウォーターに手を伸ばしそういった。これが素の降谷零という人間なのだろう。安室透の甘いマスクからすると、言葉の端々に鋭さが増した感じがする。

先ほどCIA所属になっている、といっていたが今回の潜入のきっかけとなった一報がCIAだったから名義を貸してくれたのだろうか。一応CIAもアメリカの組織であるし、ライブラへの理解も多少はあるのだろう。

「CIAの人間として組織に潜入していたのか?」
「らしいですねー。」

私も初耳でした、と言えば鋭い視線を貰う。別に茶化しているわけではないのだが。

「つまり、実際は違うと?」
「CIAに依頼されて潜っていた事実しか私は知りませんよ。」

だからCIA所属、ってことになったんじゃないですかねぇ…と呑気に笑った。実際嘘は言ってないし、概ね真実といえるだろう。下手にそうなんです、CIAなんですなんて主張しても私はCIAの知識なんて持ち合わせていないから叩かれればすぐボロがでるのが悲しながら現状だ。

「何のために?」
「念のために、なんていうのは嘘ですよ。ちょっ、そんな親の仇を睨むような顔やめてください。頭の良い降谷さんなら気付いているんでしょう?私が潜入していた目的。」
「……スプモーニを消すためか、」
「えぇ。まぁ、ベルモットもそれを望んでいたようだったのでだいぶ楽でしたが。」

消す、という表現は正しくないかもしれない。奴らを完全に殺すことなど今の人間に出来はしないのだから。ところで、日本支部の牙狩りの皆さんに託したスプモーニの残骸は無事クラウスに届けられたのだろうか、心配である。正直二度もやり合うのはこちらの手の内がバレているため遠慮したいものだ。

「なら質問を変える、スプモーニは一体何者なんだ?」

あれは人間業じゃない、そう言った彼に同情した。ナニを目撃したのだろうか。本来血界の眷属などという人知を超えるバケモノは一般人が見るべきものではない、その片鱗も。

「………モンストレスとしか言えないですね、だって降谷さんはこちら側の人間じゃないですし。」

何時ぞやの彼のように暗にこちらの領域に入ってくるな、と言った。それにしてもスプモーニは組織内でも普段からその化け物じみた(いや、実際にバケモノだが)能力を構成員に見せていたのかと考えるとちょっと頭が痛くなる。一度組織の人間をSAN値チェックした方が良いのではないか、と思ったのは秘密だ。

「これ以上私からお話出来ることはありませんよ?」
「………また明日来る。」

明日なんて、ない。部屋を辞した彼を傍目にそう思う。特別拘束されているわけではないが、窓から逃げ出すというのはサイズ的に難しそうである。

「私達のことはこれ以上教えられないけど、」

そう小さく言葉を紡いだあと、召喚陣に閉まっておいたUSBをおもむろに喚び寄せた。サイドテールに置かれていた筆記用具にメモ書きをし、その上にUSBを置く。

「私にはこれ必要ないしね。さ、行きますか…」

先ほどのメモから一枚抜いといたので、緑男を喚んで病室を抜け出した。外に出ればK・Kがバイクに跨ってスタンバっていた。

「遅いわよ、朔っち!はい、これ」

そう手渡されたのはロングコートにヘルメットであった。確かに室内着のままバイクで移動するのは少し心許ない。

「この周りの屍はK・Kの見張り?」
「そ!失礼しちゃうわよねぇ」

K・Kの背にしがみつけば、彼女はエンジンを掛け飛ばした。そのまま空港へとバイクは向かい滑走路に進入したと思ったら、そのまま飛行機の格納庫へ収納された。なるほど、飛行機をチャーターしたのか。となるとこのままHLに向かうわけで。とうぶんこの国に戻ってくることもないだろう。







降谷さんへ
このデータ、私は必要ないので差し上げます。もし、手っ取り早く組織を潰したいのならば幹部連中をHLに向かわせることをオススメしますよ。今までお世話になりました。




「すみません、降谷さん…まさかこの警備の中から逃げ出すとは…」
「気にするな、風見。彼女は普通じゃない。」

気付いた時は既に病室はもぬけの殻となっていた。壁には何かに蝕まれたかのように人が一人通れそうなぐらいの穴が空いていて、そこに彼女の姿はなくサイドテールの書き置きのみがその存在を主張していた。所持していたタブレットにUSBを差し込めば、文字の羅列が表示された。目を通せば各国の政府に潜り込んでいる組織の構成員のリストだった。つまりはスパイリストだ。

「すぐに、このデータを元にスパイの炙り出しをしてくれ。」

風見にUSBを渡し、そう言った。

「結局、君は一体何者だったんだ…朔。」
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