何ともならないのかと激昂して-File6

何とか-何ともならないのかと激昂して-File6

「到着、っと。ほら、早く降りてよ安室さん。」

公安としての行動をする彼をバーボンというコードネームで呼ぶのは相応しくないと思い、普段使っているその名を呼ぶがこの名とて偽名なのだろう。

「貴女はどこへ行くんですか。」
「先に諜報員がこの水族館に入ってくれててね、スプモーニの居場所は分かるんです。安室さんは観覧車に行くんでしょう?」
「えぇ、そのつもりですが…」
「じゃあ、ここでお別れですね。私は無事にスプモーニを仕留めたらそのまま組織を抜けるので。」

その言葉に眉を寄せた男に、それ以上何も言わず横を通り抜けた。牙狩りの諜報員によるとスプモーニは観覧車近くにあるメリーゴーランドにいるらしい。私の持ち味は術式によって弾丸に属性を付与して狙い撃ちすることである。予め諜報員がリサーチした、最もメリーゴーランドを狙いやすい建物に入り三階のレストランから愛銃である鉄乙女砲を召喚し、照準をスプモーニにあわせた。牙狩りの人間が既に手配をした為、あたりに一般人は居なかった。そこにいる一般人は一般人を装った牙狩りの人間である。対血界の眷属専用の強い術式を描いた弾丸を装填し、スコープを覗き引き金を引いた。その時、スコープ越しで微笑んだスプモーニと視線が交差した。

「……バレてるわ、これは。」

弾は当たることなく、スプモーニの髪を擦りメリーゴーランドの支柱に傷を作った。次の瞬間にはレストランの大きな窓が全て割れ、先ほど照準を構えていた場所に何やら弓のようなものが突き刺さっていた。こんな狭いところで暴れられるよりは広いところのがマシなため、割れたガラスから飛び降りた。

「ふふっ、はじめまして…ベリーニ!私、貴女がいつ来るのかとずっと待っていたのよ。なのに、貴女はいつまで経っても仕掛けてこないんだもの。」

メリーゴーランドからフワリとスカートをたなびかせ、降りた彼女はそう言った。

「……いつから気付いていたか、と聞いても?」
「貴女がコードネームを貰った頃よ。だって、そのコードネームは私が付けたんだもの。」

悪戯が成功したように喜ぶスプモーニに殺意を覚えたのは致し方ないと思う。衝動的に小銃を召喚し放つがやはり躱される。だから、一人でどうにか出来るか分からないと言ったのに。スプモーニの指が変形し、それぞれの指がまるで生き物のように攻撃を避けながら続けて召喚した鉄乙女砲で弾丸を放つ。

「貴女、意外とノーコンなのね。」
「……心外です。爆ぜろ」

ただの弾ではなく、対血界の眷属用の炸裂弾である。

「………!」

それなりにダメージを与えることは出来たようで疵口を抑えながら、さながら鬼の形相で……と、種類は違えど鬼だから間違ってはいないか。傷付けたお返しだとばかりに先ほどよりも鋭さが増した攻撃が繰り出され、避けきれずに何箇所に攻撃を受けた。

「そういえば、貴女は術式を付与した弾丸を使うのよね。なら、これならどう?」

しかし、ニヤリと口角を上げたスプモーニは手からジャラジャラと何かを落とした。床に落ちカンカン、とその音がこだまし、驚き見れば持っていた弾丸が全て無くなっていた。まさか早々にその手をとられるとは思っていなかった。攻撃を受けた時にすられたのだろう。本当、バケモノだ。

「くそっ」

悪態をつきながら、使い物にならなくなった相棒を消し攻撃回避に集中した。

「朔さん、我々が時間を稼ぐのでその間に…」

後ろからそう聞こえた声は、日本支部の牙狩のものだった。彼らとて牙狩であるのだから、血術式を持っているものもいる。だが、私を含め皆血界の眷属を殺すほどの力は持っていない。だから、

「…ありがとう」

時間を稼いでいる間に先ほどよりも更にスプモーニから距離を取り、死角で足を止めた。

「このへんで、いいか。」

『てぃび まぐぬむ いのみなんどぅむ しぐな すてらるむ にぐらるむ え ぶふぁにふぉるみす
 さどくえ 』

吸血鬼に対して星の精をぶつける私はおかしいだろうか?いくら血界の眷属といえど、地球外生命体に血を吸われればその命はないだろう。そもそも星の精を使役するにはとても高いリスクが伴うが、今回のような事態に関しては不可効力だ。クスクスと星の精の嗤い声があたりに響く。

「日本支部のみなさん、退いてください!」

星の精は無色透明であるため、その姿を視認出来ない。それゆえに、不可視の吸血鬼とも言われている。支部のみなさんは何が起きたか理解していないようだったが、星の精はスプモーニを「食事」と無事に認識したようで、その鉤爪でスプモーニを捕まえ全身を密着させ吸血した。次第に星の精の外観が吸血した血液が透明な体を巡り姿を現した。胴体からは先端に鋭い歯のついた触手状の口や消化器官が無数に露出していた。うん、これは精神的に良くないから見なかったことにした支部の人々は正解だ。

「な、に…この、ばけもの!」

スプモーニの悲鳴があたりに木霊するが、星の精は吸血を止めることはなかった。そのあまりの光景に日本支部のみなさんも顔色が悪いように見えた。さすがに、血界の眷属といえど神話的存在には勝てなかったようだ。スプモーニの血で満足した星の精を返した。

「………私の勝ち、ね。」

そう呟いた後、辺りの明かりが急に消えた。ベルモットが何か仕掛けたのだろうか。私は晴れて任務を達成したわけだが、ああは言ったがやはり安室さんのことが気がかりである。

「朔さん、」
「報告書はお願いしても?私はこれから助手としての責務を果たそうと思うので。」
「はい、任せてください!」

安室さんが向かったであろう観覧車を目指して歩みを進めた。
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テーマ「人外ファンタジー」
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