あかいろの最終地点

「なんで君が此処に…それに、これは…」

レベルエンドにトドメをさした鉄扇をぶらりと下げ、灰塵と化したそれを眺めていると後ろから声をかけられた。その声にはそう、とても聞き覚えがあった。

「先日ぶりですね、ミスター。いえ、ライブラの構成員の皆さん。」

振り返れば、やはりそこに居たのは黒いスーツに青いシャツを着た伊達男で横にはスーツの似合う不可視の人狼さんが居て。その後ろには紳士な赤神の強面さんもいる。彼らがこの街の秘密結社”ライブラ”の人間で世界の均衡を保つために動いていることは、残りのエンドを狩る中で知った。この街が出来て三年の間に彼らはずいぶんと活躍していたようだが、その功績は都市伝説と同等で組織の存在すら公に認知されてはいなかった。だから、世の中に興味がなかった私はその都市伝説すら知らなかった訳ではあるのだが。元々の彼らの専門は皮肉ながら吸血鬼狩りらしい…血界の眷属の方の。

「これは君が?」
「えぇ、この街にはもうレベルエンドは居ないはずよ。少なくとも、今は。」

こんな小娘が理性を無くした吸血鬼を一掃出来るものなのか、といった視線を感じて曖昧に笑みを浮かべる。彼らがライブラである、という情報を得ていることから一層警戒されているようである。

「これからも、この街にレベルエンドが現れるでしょうけど、それはそこにいる協会のハンターさんがどうにかしてくれるんじゃないかしら?」

彼らの更に後方に居た鷹宮を、閉じた鉄扇で指して言った。

「お互いの領分には踏み入らないのが身の為ではなくて?」

そこまで言って、背後にぞわり、と気配を感じた。同時に「危ない!」という声がとぶ。振り返りざまに目を細め、相手を睨んだ。

「 ああ、全くもう!横槍を入れないで頂戴!動くんじゃないよ」

すると、襲おうとしていた血界の眷属は動きをピタリ、と止めた。どうやら純血種が他の吸血鬼を従えるという本能による従属は血界の眷属にも有効なようだ。今まで試そうと思ったことが一度もなかったから知らなかった。その様子に息を呑んだのは誰だったか、だがその沈黙も一瞬のことで動きを止めた血界の眷属を物理的に吹き飛ばされたのを傍目に見た。すると、血界の眷属は魔法のように十字架となった。クラウスと呼ばれていた男性が何やら言いながら攻撃を加えたが、あれは血界の眷属の名前だったのか。そして、その名前を教えたであろう先ほどは一般人だと思ってカウントしなかった少年に目を向ける。

不思議な目の持ち主である。此方を見て目を見開いていることから、私の正体にも気付いたのかもしれない。

「クラウスさん、その女の人、血界の眷属とは違いますけど目に痛いくらいの紅(あか)色のオーラを出してます!」

オーラ、という言葉に首を傾げている間に足元が凍りついた。その発生源は伊達男で。只者ではないと思っていたが、血法遣いだったわけか。

「それで、彼女の諱名は!」
「それが見えないんです!」

「その女の名前は緋桜 朔。純血の吸血鬼だ。」

諱名が見えない、ということに焦る面々に余計な一言を付け足したのは後ろで静観していた鷹宮だった。

「だが、残念ながら純血種を殺すことは禁じられている。そして血界の眷属と違って名前には縛られていない。」

コツコツと革靴を鳴らしながら、近づく鷹宮に目を細めた。

「そうね、私達は名前には縛られていないわ。それに血法も効かない!」

バリ、という音共に身体の自由を奪っていた氷を破壊し後方へとバク宙をしながら距離をとった。いくら治癒能力が高く、後ろにいるライブラの面々の攻撃が効かないとしても吸血鬼ハンターとの間はあまり詰めたくないものだ。それも、逃げる前提ならば。この街に居るのはもう潮時だろう。閉じていた扇を顔の前で開き一振りすれば、辺りを桜吹雪が巻き上げた。渦巻く桜で視界不良である。己の身体を燕に窶しその場をあとにしようとすれば問いかけが投げられた。

「おまえ、玖蘭の当主が行なっている”司法”には参加しないのか?」
「……しないわ。参加出来るわけないでしょう?」

その言葉を残し、たった三年しか過ごさなかったHLから姿を消した。

元老院が失くなってから吸血鬼の貴族階級以上が参加する司法によって、吸血鬼自身が犯した罪が裁かれるようになったのだ。取り仕切るのは枢の妹であった玖蘭優姫。彼女の周りには叔母が吸血鬼に変えた錐生零も居るから、私にとっては接触をしたくない相手である。

「さて、これからどうしようかしら…」

こんなに早くHLを出る気はなかったのだが、これ以上あそこにいてもライブラと血界の眷属のいざこざに巻き込まれそうである。菖藤の当主のように姿をまた隠すか、はたまた標木の当主のように永き眠りにつくのも一つの手かもしれない。
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