何ともならないのかと激昂して-File5

何とか-何ともならないのかと激昂して-File5

辿り着いたのは人気のない港の倉庫だった。私達が到着した時にはジンの愛車であるポルシェ365Aがあり、その目の前の倉庫の扉が人一人が入れる隙間ほど開いていた。車から降りたあと、ベルモットが銃口を突きつけながらバーボンに中に入るように促した。中には三脚式の投光器が置かれており、思っていた以上に明るい。既にキールが捕らえられており、ベルモットがキールとバーボンを手錠で鉄骨に拘束した。拘束された2人のことも気になるが、それよりも姿の見えない彼女に私の意識はいっていた。

「……スプモーニは?」

煙草をふかしていたジンが鼻で笑ったあと「あいつは東都水族館だ。」と言われた。どこに鼻で笑う要素があったのか解せぬが、その言葉に今のこの状況に興味を失わせるには十分だった。やっと、彼女と対面出来ると思ったのに!分かりやすく肩を落としたあと、倉庫の扉をすり抜けた。後ろでベルモットの声が聞こえたが足を止めることはなかった…

夕日が照らす埠頭をしばらく歩いたあとに、自分のあとを追いかける足音に足を止め、振り返る。

「はじめまして、だな。」
「えぇ、はじめまして。ライさん?」

その言葉にふっ、と不敵に笑ったニット帽の男に眉を寄せる。やはり、先ほど目が合ったあとに追跡されていたようだ。私も敢えてすれ違ったことを口にしなかったのだから当然の結果かもしれないが。

「組織の裏切者が何の用?もしかしてバーボンのお仲間?」

このライという男が組織と敵対する男であり、バーボンが酷く嫌っているということは知っている。偶に彼との話題に出るのだ。どういう因縁があったのかは知らないが…そのことを考慮すると目の前の男がバーボンと同じ公安所属という線は薄いといえるだろう。

「君は何も知らないのか。」
「必要以上の情報は集めない主義でして。」

組織の情報として、私が知っていることは少ない。知ることが多くなればなるほど、知ってはいけないことを知ってしまう機会も増える。で、あるゆえに今回の任務対象であるスプモーニと自分の周りの必要最低限の組織の情報しか仕入れていない。

「なるほど…。ロウが言っていた通りのようだな。」

その言葉に驚き、目を見開いてしまったのは仕方ないだろう。まさか、此処でその名前を聞くことになるとは思っていなかったのだから。

「…ダニエル・ロウ警部補のお知り合いですか。」
「あぁ、NY市警には知り合いが多く居たからな…」

過去系なのは大崩落があったからであろう。スティーブンの指示で警察サイドと交渉することが多々あった。その多くがロウ警部補とスティーブンの駆け引きではあったのだが。そういう時は大体番頭であるスティーブンに任せ、私は考えを放棄していることが多い。だから、そのような印象なのだろう。しかし、そう考えるとこの男はFBIの人間とかだろうか。

「では、私がライブラの人間で血界の眷属を追って組織のに入ったことも全て知っているのですね。」
「…そうなるな。」

だが、それとこれは話しが違う。なぜ、此処に居るのかという答えにはなっていない。

「…バーボンを助けに来たのですか?」
「まぁ、そんなとこだ。」

何処か自嘲したその言葉にふむ、と考えこむ。どうやら、バーボンはライのことを恨んでいるようだがライはバーボンを気にかけているようである。二人の関係性が全く見えて来ないが、目の前の男がバーボンの救出に手を出すというのならば手伝うのもやぶかさではないかもしれない。ついでにキールも。

そう考えていると一発の銃声が響いた。お互いに顔を見合わせ、先ほどまで居た倉庫に急いで向かった。開いていた倉庫の扉は閉ざされていたが、倉庫の側面に空いた500円玉ほどの穴から様子を伺うことが出来た。どうやら、キールがジンに撃たれたようである。

「君は術式による銃使いと聞いたが、狙撃はそれなりに出来るんだろう?生憎ライフルが手元になくてね。」
「出来るけど、もしかしてこの穴から狙えと…?」

閉ざされた扉を開けば光が漏れ、開けたことが中にいるメンツにも分かってしまう。と、なると必然的にこの穴を利用するしかないわけで。

「投光器の上にある吊り下げられたライトを狙え。そのあと、タイミングを見計らって俺が扉を開けて外へ逃げたように撹乱する。」
「了解です。」

そう簡単に上手くいくだろうか、と不安に思うがジンがどうやらカウントダウンをしているようだから考えている暇はなさそうだ。銃口を穴に突っ込んでしまうとどう頑張っても目標が見えないため、命中率を上げるために風の属性の術式を付与した弾を使用する。風の属性は攻撃範囲が広い。カウントが終わる寸前にライトのコードを狙って引き金を引いた。火花が散り、ライトは無事に投光器に落下した。おかげで室内は真っ暗だ。中から慌てる声が聞こえる。バーボンは暗闇の間に手錠を外したようだった。すると、ライが扉を開け放ったようでジンがウォッカに指示を出す声が聞こえた。が、実際はバーボンは外に逃げてはいない。彼らが倉庫から出たあとにバーボンを拾えば良いか、と考えているとおねえさんの「ジン!待って!!」という叫び声に肩を揺らした。キールをノックとしてジンが殺そうとしたのをベルモットが止めたようだった。おねえさんに何かあったわけじゃなくて良かった、と安堵すると共に様子を伺う。すると、キュラソーが公安によって東都水族館に連れてかれようとしている、という話が耳に入ってた。指示を出したのは十中八九本来の公安に属するバーボンなのだろう。と、なればバーボン本人も東都水族館に向かうのはずである。倉庫から組織の人間が出て、車が完全にいなくなってから出てきたバーボンのあとをこっそりつけた。

埠頭にある公衆電話でバーボンが通話を終えるのを待った。きっと公安の部下にこれからの指示を改めて出したのだろう。暇な待ち時間に新たに手に入れたスマホをいじる。おねえさんがくれたのは別に、牙狩りの日本支部が用意してくれたものだ。うっかりおねえさんのスマホで連絡を取ってしまうと、いつこちらの身バレするか分かったもんじゃない。ついでに車も用意してもらったので東都水族館までの足の準備は完璧だ。ガチャ、という音ともに受話器を置いたバーボンに気配を消したまま近づいた。

「お話は終わりました?」
「……!なんでベリーニが此処に。もしかして僕を始末しに来たんですか?」
「嫌だなぁ、さっきせっかく逃げる隙を作ってあげたのにその言い草は酷くないですか?」

その言葉にバーボンが瞠目した。正確にはライとの共同だが、ここでそれを言ったら怒るだけだろう。

「ほら、東都水族館に行くんでしょ?せっかく車を手配したんですから、早く行きましょうよ…公安の何某(なにがし)さん。」

車のキーをガチャガチャと回しながら、助手席のドアを開けてドアマンの様に勧めた。

「私もスプモーニに会わなきゃいけないんで東都水族館には用があるんです。」

畳み掛けるようにいうが、依然として公衆電話の前から動こうとしないバーボン。まるで、何かが仕掛けられてくるのではないか、といった構え方をされていて流石に少し傷つく。

「なぜ、キュラソーが公安からノックリストを持ち出した時にすぐさま僕の正体をベルモットに言わなかったんです?」

そんなもの、決まっている。

「私にとって組織がどうなろうと関係ないから、で納得してくれますか?私のターゲットはあくまでスプモーニですもの。それ以外の事象に積極的に関わるつもりはないです。だから、本当はそれ以外の出来事には関わるつもりはなかったんですけど…さすがに、助手となれば情ぐらいわくものなんですね。」

まぁ、結局はこの優秀な同僚に知らぬ間に解されていたというわけだ…あまり認めたくはないが。

「と、いうことでさっさと乗ってください。あ、大丈夫です。このクルマは私が所属する団体に用意して貰ったので組織に追跡されることはありませんよ?」

そこまで言うと、何処か納得したような、してないような…なんとも言えぬ表情をしながらバーボンはクルマに乗りこんだ。私も後を追うように車内へと入る。すぐさま、エンジンを掛けアクセルを踏んだ。

「一つ聞いても良いですか?あなたの所属する団体とは一体…」
「……手始めに世界を救っちゃう組織、ですよ。」
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