何ともならないのかと激昂して-File4

何とか-何ともならないのかと激昂して-File4

ジンとウォッカがリースリングを追い詰めるのをシュプレー川にかかる橋の上から高みの見物をきめていた。

「行ったはずよ。私はノックではないと!!」
「ならば、白黒つけようじゃないか。」

元はといえば、キュラソーがノックリストを手に入れたことから今回の一斉粛清が行なわれることになった。裏切り者には死を、それが組織の方針だ。あたしには関係ないけどね!だって人間にはあたしを殺せないし。リースリングは否定しているが、ジンは確信を持っているから行動に移しているのだ。だから、彼から逃れることなど出来ない。逃げ回る彼女はなんて滑稽なのだろう!ジンのカウントダウンが無慈悲に行なわれる。

「ゼロ!」

その言葉と共にリースリングの頭をジンの弾丸が貫く。川に飛び込もうとしていた彼女は力なくそのまま水に落ちた。すぐに遊覧船が通ったが、船の立てる波が血と死体を観光客から隠す。サイレンサーが付いていたので、発砲音も響いていない。

「ほらね、逃げられない。」

靡く髪を抑えつつ微笑めば、ジンがこちらを見て言った。

「行くぞ。急げ」

その言葉に笑みを益々深めた。残る裏切り者は二人。ウォッカが「どちらへ?」と尋ねるが、尋ねるまでもないのに。

「日本へ行くんでしょ?」

ジンがフッと口の端を持ち上げた。よっぽど残る二人を粛清したいらしい。









ベルモットと共に公共機関を用いてキュラソーが運ばれた東都警察病院へ来たが、案の定警察のガードが固くて連れ出すことは無理だった。どうやら、警察はあの高速での事故の重要参考人としてマークしているらしい。しかし、指示したのはキュラソーだが実行犯は私である……心中複雑だ。

「ベリーニ、」

下を向きながら歩いていた私にベルモットは声をかけた。慰めてくれる、なんてことはおねえさんに限ってないだろうとは思っていたが、顔を上げればそこにはバーボンが愛車から下りてきたところだった。ベルモットはジャケットの下に銃を用意していた。流石の手際である。バーボンもこちらに気付いたようで、驚き歩みを止めた。

「バーボン。なぜ、あなたがここに?」
「もちろん、あの人を連れ戻すためです。」

その言葉にベルモットはフッと口の端を持ち上げていた。私はその様子に肩をすくめる。バーボンという人間に改めて関心させられた。此処にいるのは公安として、キュラソーを抑えるためであろうにそれをおくびにも出さないなんて。そして、彼女は言葉を畳み掛ける。

「てっきり記憶が戻る前にあの人のくちをふさぎに来たのかと…」
「なぜ僕がそんなことを?言っている意味がよくわかりませんね。」
「じゃあどうやって接触するつもり?あの人は厳重な警備の下、面会謝絶よ。それともあなたならあの人に簡単に会えるのかしら?たとえば警察に特別なツテがあるとか。」

ベルモットが此処まで追求するには理由があった。道中に聞いた話によるとキュラソーからラムに送られたメールには『ノックはスタクト、アクアビット、リースリング。あなたが気にしていたバーボンとキール』と書かれていたらしい。どうやら、カーチェイス中に追突された際に送った内容がそれだったようだ。前者は既に粛清したといっていた。後者に関しては続きが分からない為に保留扱いである。だから、彼は黒とも断定されず…いや、この場合は白というべきだろうか?とにかく不幸中の幸いだったわけだ。しかし、バーボン本人はそんなこと知らない。また、カーチェイス時に高速ですれ違った私がベルモットに報告している可能性すらあるのだから…とりあえず、その不安要素を取り除くことが今私に出来ることか。

「ベルモット、そんなボロクソ言ったら可哀想だよ。バーボンがノックと決まった訳じゃあないんだから。」

そういい、銃口からバーボンを庇うようにベルモットの前に出た。その様子に双方驚いたようである。

「ベリーニ、退きなさい。」
「これでもバーボンの助手なもので。」

その言葉な溜息をついたのはどちらだったのだろうか。

「立ち話も何だし、場所を変えましょう。」
「……仕方がありませんね。それが組織の命令だというのなら。」

ベルモットがバーボンの車の助手席に座り、私は後部座席に座ることになった。なんの気なしに、外を見れば以前カーチェイスをした際に安室さん以外に追ってきた車と同じ車が視界に入った。目を見開くと、あちらもどうやら気付いたらしかった。私、あの人に撃ち殺されかけたよね…そう外を見ているとベルモットが後ろを振り返り爆弾を落とした。

「ベリーニ。貴女が会いたがっていたスプモーニ、日本に来てるそうよ。」
「……それ、まじ?」
「ふふ、本当(まじ)よ。貴女が何故スプモーニに会いたがっていたかは知らないけど、私は彼女のこと嫌いだから何が起こっても知ったことじゃないわ。」

ベルモットのその言葉にピンときた。おねえさんはあの時、意図して私に接触したのではないか…と。だから、わざわざ”何が起こっても知ったことじゃないわ”と言ったのではないだろうか。だとすれば、おねえさんさんはスプモーニが血界の眷属であることも感知していたのかもしれない。私とおねえさんの様子を訝しげにバックミラー越しにバーボンは見ていた。

「バーボンだって、あんな化け物には組織に居て貰いたくないでしょう?」

ベルモットがそう畳み掛けるが、どうやらその真意は掴めていないようだった。

「生憎、僕はスプモーニには会ったことがないので貴女が毛嫌いする理由は知りませんが。人畜無害そうなベリーニが敵意を向ける組織の人間というのは少し気になりますね。」

そもそも人間ではないのだが、と心の中で呟くがそれが彼に届くことはない。
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