何ともならないのかと激昂して-File3

何とか-何ともならないのかと激昂して-File3

レストランで景色の見える窓際のテーブル席を無事に獲得した。ベルモットがノートパソコンを開き、セッティングをしている間に私は双眼鏡でキュラソーを探した…が、そう簡単に見つかる訳もなく。人が多すぎるし、忙しなく入れ替わる人々の中から1人の人間を特定するのは並大抵ではなかった。諦め、注文しといたカプチーノを啜りながらベルモットを見ているとどうやら設定が完了したようである。それから間もなくしてベルモットは笑みを浮かべ囁いた。

「…あたりよ。」

すぐさま右耳につけていた通信機で彼女はジン達に連絡をした。ベルモットが用いたのは顔認証システムである。探したい人間の顔を登録すれば、あとは小型カメラが自動追尾しながら対象を照らし合わせてくれるのだ。相変わらず組織の科学者は凄いな、と感心しつつ無事にキュラソーを保護出来たらバーボンが公安のノックであることが組織に露見するのか、と眉を寄せる。サポートといえど、一ヶ月も共に居れば情も移る…というものだ。今の所、私から彼の正体に関して組織に報告するなんてつもりは全くなく、静観する構えだったのだが。さて、どうしようか…

「ベリーニ、キュラソーを保護するわよ。」
「らじゃーです。」

観覧車の待機列に並ぶキュラソーに近付くと、あることに気付いた。キュラソーと共にいる子供達の姿に足を止めた。

「どうしたの?」
「キュラソーと一緒にいる子供達と知り合いなんですよ…此処で私が接触するのはまずいかもしれません。」
「…そう、なら私が1人で行くわ。」

そう言い、ベルモットは帽子を深く被り列へ近付いた。キュラソーと共に居た子供達はなんと少年探偵団の諸君だったのである。となれば、彼らに見つかれば絡まれることは必須である。ベルモットと共に行動してる時には避けたいものだ。コナンくんはどうやら黒の組織の存在を知っているようだし。近くの柱に寄りかかりながらベルモットの様子を伺っていると、終ぞキュラソーを連れてくることなくこちらへと戻ってきた。

「キュラソーに声を掛けたけど無視されたわ。どういうことかしらね?」

その言葉に唖然とする。……ベルモットがキュラソーに無視された?そんなこと有り得るのだろうか。子供達に脅されてる、なんてことはないだろう。

「とりあえずキュラソーの動向を伺った方が良いかもしれませんね。」
「…そうね。」

そうして、キュラソーを監視することにした私達はすぐさま驚くべきものを目にすることになる。少年探偵団の元太くんが観覧車行きのうごく歩道から身を乗り出した結果、落ちたのだがそれをキュラソーが己の抜群な身体能力を活かして助けたのだ。彼女がキュラソーならば、子供を助ける、なんてお人好しな行為をする訳が…考えられるとするならば、

「……記憶喪失?」

その言葉にはっ、とベルモットがこちらを見た。キュラソー自身の人格が失われているならば、彼女が組織に連絡を入れなかったことやベルモットの言葉を無視したのも、元太くんを助けたのも分かる。車ごとダイブした時は様々な落下物が共に海に投げ出されていたから、それに当たったとしても不思議ではない。

「とりあえずキュラソーをどう回収するか、ね。」
「キュラソーが彼らから離れたところ拉致るとかしかないですよねぇ…」

我ながら中々物騒なことを言っている自覚はある。だが、キュラソーが記憶喪失だとしたら私達は彼女にとって不審者以外の何者でもないのも事実である。問題はどうしたら、彼らがキュラソーから離れるのか。少年探偵団の彼らの目の前で接触すれば、余計なことを追求されるのは必須だろう。私にしても、おねえさんにしても。そこにあのコナンくんが加われば火を見るよりも明らかだ。

「とりあえず機を待ちましょう。」

ベルモットがいう”機”は思っていたよりも早く訪れた。結局、二人でキュラソーを監視していると彼女は観覧車に子供達と共に乗ってしまったのだが、その観覧車で急病人が出たということで、あたりが騒然としていた。観覧車からストレッチャーで運ばれたのはキュラソーだったのだ。お互いに顔を見合わせながら、後を追った。そこでベルモットが医務室に潜入したのだが、どうやら記憶喪失である確証が取れたらしい。問題なのは、救急車で彼女が運ばれる先は警察病院だということ。余計に手を出し辛い環境になったわけだ。これでちゃんとキュラソーを警察が監視していてくれれば、最悪の事態は更に遠のくのかもしれないが。

ベルモットはジンに連絡を入れているようだった。









ドイツの首都であるベルリンを東西に横切るシュプレー川に架かる橋の上に黒い外套を着た男と黒いワンピースに身を包んだ少女が居た。男はスマホで通話を終えると背後に停めてあった車へ向かって歩き出した。少女はスカートを閃かせタップを踏みながら後を追った。

「久しぶりね、ジン、スプモーニ。」

車からは大柄な黒いスーツにサングラスの男、ウォッカと共に出てきた女がドイツ語でそう言った。

「あなた達が出てくるなんて、今回の任務はそんなに困難なものなの?」
「リースリングが協力してくれれば簡単に終わるわ!」

黒いワンピースの少女、スプモーニは微笑みながらそう言ったのだった。
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