もう何とかならないと絶望して

何とか-もう何とかならないと絶望して


「ねぇ、朔お姉さんって一体何者なの?」





コナンくんが眼鏡をギラつかせて、そう尋ねてきた時に私は世界の終わりを感じた…というのはあながち誇張表現ではない。元はといえば、この少年が部を弁えずいつもの如く事件に巻きこまれたのが原因だ。

そもそも、事の発端は牙狩り支部からの連絡である。本部からの命で黒の組織に潜入することになったが、現在私が日本に居ることから、情報などは全て日本の牙狩り支部から連絡がくる。そんな中入ったのがイギリスで転化した血界の眷属が血脈門を使って日本に入ったというものだった。バイトはなかったから、目撃情報のあった町を歩き回っていたところコナンくんに遭遇したのだ。いつものように子供とは思えない頭の回転で犯人を追い詰めた結果が

「バレちまったら仕方ないなぁ…」

という血界の眷属による先制攻撃であったのである。つまり血界の眷属=犯人だったわけだ。転化して人知を超える力を手にしたから、長年の恨みが積もった相手に復讐するというなんともチープな昼ドラか。相手の斜め後ろにあった窓ガラスに姿が映ってないので、コナンくんが対峙してる時点であ、という感じではあったのだが。相手がモーションに移すと同時にコナンくんを脇に抱え、後ろへと下り間合いを取る。

「朔お姉さん!!?」

驚くコナンくんを尻目に、シャツの胸ポケットに入れておいた召喚陣でショットガンを召喚した。間髪入れずに銃弾を撃ち込む。

「なんだ、これは。再生力が落ちた、だと…?」

その言葉にニヤリ、と口角をあげる。

「それは特製の術式を組み込んだショットガンなの。貴方達、血界の眷属ってDNAを改変してるんでしょ?だから、直接そのDNAに更に術式で書き足してるの。」
「クッソ…!銃使いであるのに術者だと……まさか、お前は牙狩りの、」

男はそこで言葉をなくした。
女は距離を詰め、男の額に銃口を突きつけていた。

「私も有名になったものね…でも、私のことより貴方を転化させた血界の眷属のことが知りたいんだけど?」

男は先ほど撃ち込まれたじわじわと広まる術式によって身動きが取れなくなっていた。かろうじて、口のみが動くようだ。

「スプモーニはロンドンにいる。」

その言葉に朔は溜息をつく。
スティーブンからの電話でスプモーニがイギリスに居ることは知っていたが、こいつを同族である血界の眷属にしたのはスプモーニ本人だったのか。一言にロンドンといってもその範囲は広い。いくら東京よりも狭い、といってもだ。気になるのは、後ろにいるコナンくんが”スプモーニだって…?”と息を呑んだことだ。

「へぇ、で?やつの目的を教えてくれない?」
「人間社会の裏を牛耳ると言っていた。」

その言葉に思わず口を開けてしまった。なんという目的だ…相変わらず血界の眷属が考えることは理解出来そうにない。人間社会を支配したいのか、人間を殺したいのか、

「ありがとう、さようなら」

もう、この彼に聞きたいこともないので仕込んでおいた私の血で書いた特別製の魔法陣の札をえいっ、と身動きが取れぬ血界の眷属に擦り付けた。すると、煙りと共に姿を消した。ポケットから術式の書かれたボトルを取り出し、札を丸め中に入れた。そして、コルクを閉めた後に上から血を垂らし呪文を紡ぐ。あくまで仮の措置である。血界の眷属はどれだけ粉々にしようと長い時をかけて再生する。私の術式を用いた封印術も仮の封印にしか過ぎず、術者が死亡した場合や劣化によって封印はいとも簡単に解けてしまう。だから、最終的には仕上げとしてクラウスに密封してもらうのだ。ということで、スティーブンに連絡をし支部経由で輸送することが決まった。通話を切り、思い出したかのように後ろを振り返れば怪訝そうな顔をしながらも目をギラつかせた彼が後ろにいたわけである。一部始終どころか全てを見られていたのを忘れていた…!そして、冒頭の言葉へと戻る。

「ねぇ、朔お姉さんって一体何者なの?」
「そうだねぇ、手始めに世界を救っちゃう組織の人間、かなぁ」

”世界を救う組織…?”と何やら言葉を反復したあと、少年は顎に手を置きながら思考に耽った。この間、クラウスが新たな仲間に加わったというレオナルド君に言い放った言葉だ。最も、私はこの名言を生で聞くことは叶わなかったので、その場に居合わせたチェインからの伝聞であるのだが。この死神のように事件現場に遭遇する、すごく頭の良い少年を私は欺くことが出来るのだろうか。スティーブンならいざ知らず、私には無理である。こういう時は真実を織り交ぜた嘘をつくと良い、と以前K・Kが言っていた。

「じゃあ、朔お姉さんは悪いやつらの仲間じゃないんだね?」

その言葉に先ほどの違和感はやはり、と思った。少年は【黒の組織の構成員が酒に関したコードネームを付けられることを知っている】のだろう。

「コナン君がそう思うなら、そうなんじゃない?」
「そっか…それより、朔お姉さん。この国では一般人の拳銃の所持は認められていないよ。」
「そうね…これなら良いよね?」

そう言い、召喚陣を真っ二つに破り捨てた。手中にあったショットガンは雲散して消える。その様子に少し驚いたような表情をしたが、そもそも召喚をしたところも目撃されているのだから今更である。召喚や今回の件に関して何か言いたいことがあるようだが生憎一から説明する義理はない。

「君は自分の領分を弁えた方が良い。」

だから、そう一言つけ加えてコナン君の頭を撫で回した。牙狩りやら血界の眷属とか、それに対抗する力を持たなければ何も出来ないのだから。
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