何とかなってほしいと懇願して(後編)

何とか-何とかなってほしいと懇願して(後編)

食堂車で優雅にティータイムを楽しんでいたら、けたたましいベルの音が車内に響いた。続いて車内放送で火事です…と流れ、その言葉に食べかけていたスコーンを皿に置いた。食べることに夢中になり過ぎていて、火事が起こることを忘れていた。実際には火事ではなく、模した煙のみで出火はしていない。というのも、この小道具を作ったのも私なのである。今回乗り合わせた乗客の中には火事に対するトラウマがあるから、煙だけでもパニックを引き起こすとかなんとか、ベルモットが言っていた。

「バーボンは後方の車両だっけ…」

さっさと行かなければらどやされそうである。人の流れに逆らいながら後方車両を目指す。すると、ほんの一瞬どこからか殺気ではなくプレッシャーをかけられたような気がした。驚き、辺りを見回すが怪しい影は見当たらない。首を傾げつつ、バーボンの元へと急いだ。最奥が見えると、何時ぞやにベルモットが見せてくれた写真と同じ姿のシェリーと、それと対峙するバーボンが目に入った。

「さぁ…手を挙げたまま、移動しましょうか…8号車の後ろの貨物に…」
「えーっと、間に合った?」

バーボンは銃をシェリーに突きつけ、先ほど私が爆弾を仕掛けた車両に追い込むようである。

「遅いです、ベリーニ。というか、貴女なんで口元にクリームがついているんですか!」
「あっ、クロテッドクリームが美味しくて…」

なかなかお目にかかれないので、つい。と言うとバーボンだけではなく、シェリーにまで呆れたような顔をされた。肩身が狭い…

「ところで、貨物車に入って貰わなくて良いの?」
「そうですよ、全く貴女のせいで話の腰が折れてしまったじゃないですか!その扉の向こうが貨物車ですよ。ご心配なく…僕は君を生きたまま組織に連れ戻すつもりですから…」

バーボンがそう言ったのに対し、私は一歩下がった。まずくないか、ベルモットの指示で貨物車にも爆弾をしかけたことが此処で露見したら確実に問い詰められるだろう。

「まぁ、大丈夫…扉から離れた位置に寝てもらいますので、爆発に巻き込まれる恐れは…」
「大丈夫じゃないみたいよ…この貨物車の中、爆弾だらけみたいだし。」

おっと、シェリーあなたが言うの!
その言葉にバーボンがこちらに振り返った。彼が非難をあげる前に言葉を被せた。

「ベルモットに頼まれたんだよ…黙っててごめんね!」

先ほど放置した事案が最悪な形で露見するなど、誰が考え付くだろうか。罵られる前にさっさと謝った。その言動にさすがに呆れたらしいバーボンは嘆息した。

「仕方ない…僕と一緒に来てもらいますか…」

バーボンはそう言ったが”悪いけど…断るわ!”と言ってシェリーは扉を勢いよく閉め、爆弾が仕掛けられた貨物車両へと立て込もった。彼女のその対応が余計に油を注いだようで、矛先が完全に此方に向いていた。

「全く…貴女のせいですよ!」
「えーー、そんなこと言われても」

そう言い荒そっていると、ギィィ…という音と共に先ほど私が入った時に閉めた背後のドアが音を立てて開いた。スモークが立ち込める中、見えたシルエットはベルモットが揺さぶりをかけるために変装した赤井と同じ帽子を被った姿だった。事実、バーボンもそう思ったから牽制をしようとしたのだろう。

「ベルモットか…悪いが彼女は僕が連れて…」

しかし、その言葉はカンカン、という音によって遮られた。そちらを見ると、車両の繋ぎ部分に手榴弾がぶつかり音がしたようだ。

「手榴弾!だ、誰だ!?」

バーボンは驚き、そちらへ銃口を向ける。相手が近づいてきたことによって、その顔をはっきり捉えることが出来たがそれはベルモットが変装していた火傷がある男ではなかった。

「ちょっと!バーボン死ぬよ、これ!」

驚きで動かないバーボンの腕を掴み、手榴弾が投げ込まれたシェリーのいる車両とは反対側へと引っ張り込んだ。すると、次の瞬間爆発し貨物車両はその衝撃によって切り離された。仕掛けたC4と連動する可能性があったわけだが最悪な事態にはならなかったようだ。だが、隣で”くそっ!”と悪態をついているバーボンを見る限り最善でもないのだが。その間に先ほどの男の姿も見えなくなっていた。しばらくして、橋に差し掛かったところで連結が離れた車両が爆発した。きっとベルモットが起爆スイッチを押したのだろう。

その後、ベルツリーは近くの駅で停車し乗客全員が此処に取り調べを受けることになった。
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