何ともならないのかと激昂して-File1

何とか-何ともならないのかと激昂して-File1

車内にお気に入りのドラマのサントラを流しながら彼女が来るのを待っていた。路上駐車している近くには国家公安委員会 警察庁と書かれた看板があることから、彼女がそこに潜り込んでいることはお察しである。ベルモットに「貴女、日本に居るならキュラソーの運転手をしてきなさい」と言われたのは記憶に真新しい。確かに、バーボンの補佐として日本に来てからは組織の人間というよりは、どちらかというとしがないアルバイターである。車もベルモットが用意してくれたもので、薄給なアルバイターではローンを組んだとして返済に何年かかるやら…といった感じのものだが、生憎車の知識には乏しいので車種とかは分からない。立派な'おねえさん'のヒモである。自分で言っていてつらくなる…そうつらつらと考えていると、

ガシャーン、という派手なガラスが割れる音共に一つの影が窓ガラスから転がり出た。とても人間技とは思えない芸当である。その様子を見て、車のエンジンをかけた。地上に降りた彼女を警備勤務の警官達が追いかけてくる。穏便に済ませられなかったのか、と絶望的な顔をしつつ助手席のドアを開けておくと彼女は勢いを殺さずに車内へと飛び込んだ。某国民的なアニメのedのように中でバウンドするのではないかと危惧したほどである。

「なにをやらかしたの…」

彼女、キュラソーにそう問いかけるが返事はない。息を乱す彼女に対し、事前に購入しておいた水の入ったボトルを投げ、すぐさまアクセルを踏み込み加速して桜田通りを疾走した。すると待っていたかのように、赤のスポーツカーが急発進するのがサイドミラー越しに見えた。料金所のバーをはじいて首都高に入る頃にはキュラソーも落ちついたらしく、彼女の上司であるラムに報告のメールを打ってるようだ。HLに居た頃にはギルベルトさんの代わりとして、何度もあの街を車で走行していたから一応ドライブテクニックには自信があるのだが、相手も強者のようで振り切らせてくれない。そう考えているとガンッ!と背後から強い衝撃を受けた。どうやら追突されたようで、バックミラー越しに白い車と運転手の姿が見え目を見開く。

運転手は安室透だった。公安から追ってきた、ということはバーボンは公安のノックだったのか。キュラソーが隣で舌打ちをしていたので尋ねるとどうやら先ほどの報告が追突で衝撃と共に送信してしまったらしい。

「続き送れば良いんじゃない?」
「…そうね」

なんの報告書なのか私は知らないが。私はベルモットに運転手を頼まれただけで、キュラソーの今回の任務に関しては感知していない。そんな会話をしている間にバーボンの車が並んでいた。

「今すぐ車を止めろ!」

そう言った後にバーボンは目を丸くした。キュラソーが事前に用意した車を運転してると思っていたのだろうか。

「悪いね、バーボン。」

そう言いハンドルを左に切り体当たりを仕掛けるが避けられた。カーブをスピードを出したまま後輪を滑らせながら曲がると、先ほどからつけてきていた赤いスポーツカーもピッタリとつけてくるではないか。しかも、何時ぞやに感じたプレッシャーを再び感じる。本能的に更にアクセルを踏み込み橋を猛スピードで走りながらミラーで後ろの様子を伺うとバーボンと赤いスポーツカーが鬩ぎ合っているのが見える。

「Shit!さっきの追突の時にスマホを落としたせいで画面に亀裂が入った上に使えなくなったわ!ベリーニ、その軽自動車に体当たりして後ろの二台を防ぎなさい!」
「OK」

おっと、任務のついていないが続きすぎて八つ当たり先がこちらに向いたようである。生憎、私のスマホにはラムの連絡先などもちろん入っていないので使えない。一般車両を巻き込みたくなかったのだが、キュラソーに指示されてはこの返事しか出来ない。何度か軽自動車に体当たりをして、トラックとの間に挟まれた車体は後方へと押し出され二台へと向かう。基本的に他人を巻き込まないように運転するのがモットーなので、このような手段は普段とらない。二台は見事それをかわしたようだが、赤のスポーツカーの方は追跡を止めたようだ。

「あの大型トラックに体当たりしたあとトラックを踏切台に下の道路に着地しなさい!」
「え…あ、はい!?」

言われた通りにやるが、どういうことだ。体当たりした後、トラックはスピンしながら先ほど追い抜いたタンクローリーに追突し、大型トラックが押し出され側壁を突き破った。

「今よ!」

その声と共にトラックの後を追い、側壁を飛び降りた。落下するトラックの荷台に上手いこと降りることが出来たが、冷や汗ものである。そこから更に荷台を走り下にあった直線道路へと降り立った。キュラソーは此処まで計算して指示を出したのか…その状況判断能力に舌を巻いた。しかし、降りた道路の先にある橋は渋滞している。となると残る手段は一つしかなく、文字通り命がけの逆走をせなければならなくなった。ハンドルを切りながら前から来る猛スピードで車を避けながら走行していると、先ほど消えたと思っていた赤いスポーツカーが止まっているのが見えた。道を塞ぐように真横に止めらたスポーツカーのボンネットには脚を付けたライフルを構えた男が待ち構えているではないか。

「ライ……!」

キュラソーが目の前に構えている男の名を呼んだ。ライ、という名前は確か聞き覚えがある…ノックだったFBIのはず。

「面白い…そのまま轢き殺す!」

その言葉に本日何度目の絶句をしたか分からないが、その間にキュラソーがギアをシフトアップにしていた。ライという男は照準をハンドルを握る私に合わせているようで絶対絶命のピンチ!ということで体をずらし、フロントガラス範囲から外れた。キュラソーもダッシュボードに隠れている。

すると鋭い破裂音と共に車体がコントロールを失う。どうやら前輪のタイヤを狙撃されたようである。慌てて体勢を立て直そうとするが、側壁に激突したあとその勢いのまま反対の側壁にぶつかりながらスピンした。最終的に先ほど体当たりした軽自動車と玉突き状態で側壁外へと落下した。キュラソーは車から素早く脱出した。私もそれに倣い、落下中の車から脱出し海へと飛び込んだ。海中には様々な落下物が後を追って落ちてきた。次の瞬間、海面が一気に明るくなった。何かが爆発したのだろう。取り敢えず息が持たないので海面へと急いで浮上したが、あたりにキュラソーは見当たらない。

「おねえさんに怒られる…」

私はなんのための運転手だったのだろうか。あれだけキュラソーが指示を出してくるならば、キュラソー自身が運転した方が早かったのではないか、と思ったがあとの祭りである。取り敢えず、海から脱出するために近くの陸地を目指すことにした。
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