何とかなってほしいと懇願して(前編)

何とか-何とかなってほしいと懇願して(前編)


いやはや、この米花町というのはなかなかHL並みに物騒な町なのではないか、ということに気付いたのは新居に越して一ヶ月経とうとしていた頃だった。バーボンの助手、なので最近はバーボンが弟子入りした毛利探偵事務所にも自ずと出入りすることになったのだが、この一週間ですでに三回は殺人事件に遭遇している。それ以外に傷害事件に二回。そんな私は、表向きはアルバイターである。なんせ、上司もアルバイターなのだから助手だけで食って行けるわけがないのだ。おかげで、今はとあるコンビニで店員をしているのだが

「……金を出せ!」

なぜ、今覆面をした男にナイフで脅されているのだろうか…解せぬ。思わず、はぁ、とため息をついてしまった私に非はないと思うのだ。

「てめぇ、いまため息ついたな!?」

そして、それに対して犯人激昂したのも不可抗力だと思いたい。仕方なしに、レジ下にあった洗剤を振りかぶって強盗に叩きつけた後にレジの台に登り顔面に一発食らわせる。なぜ、レジ下に洗剤があったのかといえば先程返品にきた客が居たからである。

「店長、紐と警察を。」

バックヤード入り口付近で青褪めた顔をしている店長にそう声をかける。その間に気絶した男の手から刃物を抜き、店長が持ってきた紐を使い後ろで手を縛った。そこまでした時に不意に無邪気な声がした。

「わぁ、朔お姉さんすごいね!」
「手つきが流石でした!」

その興奮しきった言葉に一言、言いたい。何故君たちがいるんだ。そういうと代表するかの如く元太くんが口を開いた。

「博士の家に行く前にコンビニでお菓子を買おうとしたら、ねーちゃんが見えたんだ!」

この間、蘭さんがコナンくんたちがキャンプに行くと言っていたがそれようの菓子か。バーボンの助手になるにあたって、その師匠?である毛利探偵事務所にも出入りするようになったので、彼らともある程度の交流を自然とすることになったのだ。人懐っこい彼らが懐くのはそう時間がかからなかったのだが。

「それにしても、さすがあのお兄さんの助手なことだけあって強いのね。」

そう言った哀ちゃんの言葉に嫌味か、と思ったのは仕方ないことだろう。そんな彼らを家まで送ることになったのはご愛嬌である。結局、バイト先は本日臨時休業となった。子供達を博士の家に連れて行く途中で、その細い指に似合わない無骨な指輪をしていることに気付いた。

「みんながお揃いでつけている指輪はどうしたの?」

そう問うと喜色を浮かべた光彦くんが答えた。

「ミステリートレインのリングパスですよ!来週みんなで行くんです。」
「へぇ…」

確か見た目がオリエンタル急行そっくりなんだっけ、なかなかチケットが取れないとか。よくそんなチケットを手に入れることが出来るな、と思ったが鈴木財閥がまた絡んででもいるのか。そう考えなら家に帰ると、その話を日が経たぬうちにまた聞くことになった。





「で、なんでミステリートレインのリングパスが?」

唐突に家を訪ねてきた隣人、バーボンに問う。入手困難なリングをそうそう目にしてたまるか、と思う。

「ベリーニのです。ベルモットに手配して貰いました。」

飲んでいたティーカップを机に置き、リングを手に取り眺める。わざわざ手配して貰った、という言葉に眉を寄せる。何か裏があるのだろう。その様子を読み取ったバーボンは畳み掛けるように言葉を重ねた。

「ベルツリー急行で任務です。貴女には補佐をして貰おうかと。爆弾は扱えますか?」
「まぁ、人よりは扱えますよ。まさか、ベルツリー急行に仕掛けるんですか?」
「そのまさかですよ。」

その言葉にふーん、と相槌を打つ。唐突に爆弾を扱えるか、なんていう話題を振られるとは流石に思っていなかった。まぁ、観光のためにベルツリー急行に乗るっていうのも限りなくあり得ないけど。はてはて、日本とはそうやすやすと爆弾が手に入る国だっただろうか。物騒な事件が頻繁に起こると冒頭で述べたが、なんだかんだで自分も起こす側であるから複雑だ。

「で、誰を始末するんです?」

爆弾を使うということは確実に誰かを裏切り者を始末するということなのだろう。

「……シェリー。」
「ああ、あの優秀な科学者の。私は会ったことないですけど。」

組織では割と有名な話だ。親も組織の科学者で、娘がその研究を引き継いだとか。だけど、姉があのFBIの赤井を組織へ引き入れてしまったことから始末され、それに反抗した後に姿を眩ませた…と聞いている。一方で、既に死んだとも言われていたが生きていたのか。

「一応、爆弾は車両を切り離すための物ですよ。彼女を直接爆弾で消す訳ではありません。では、爆弾の件はよろしくお願いしますね。」

それから翌日には材料が届いたので組み立てていた。アルバイターが爆弾を組み立てるとか世の中おかしいわ…ベルモットから割り当てられた材料で完成したのはプラスチック爆弾のC4だ。耐久性、信頼性、科学的安全性が高い。不足の事態に備え、こっそり術式も刻んでおいた。どうせ、気付きしないだろう。

当日は偶然を装いターゲットに接触するらしいが、とりあえず乗った時点で私は爆弾の設置に走った。助っ人でベルモットが来てるらしいが、基本的にノータッチらしい。以前シェリーには因縁がある的なことを仄めかしていたから、そのためか。ベルツリー急行の出発の汽笛が車内に響く。こんな任務が無ければ気軽に旅の道中を楽しめたのかもしれないが。バーボンには完成したものを一つ渡したが、残りはベルモットに指示された最後尾の貨物車両に仕掛ける。バーボンの予定だと、車両を切り離し組織が後に回収らしいが。例のクレーン付きのヘリが完成したのだろうか?

ま、これだけの量があったら車両を切り離すどころか車両事消し飛ぶのではないか。ベルモットは問題ないと言っていたが、どうやらベルモットとバーボンの間に軋轢があるようだ。ベルモットが出した指示のことをバーボンは知らないようだし。私は確かにバーボンの助手ではあるが、上司はベルモットである。上司命令のが優先度は上だ。

「……私は何も見てないってことで。」

さてと、私はこの爆弾が爆発するまで暇な訳だ。とりあえずベルモットの手配した部屋に戻ることにした。すると、何やら廊下が騒がしいことに気付いた。その騒ぎの渦中にバーボンと、どうも見覚えのある人々がいる。いや、確かに乗っているのは知っていたが。

「朔、」

バーボン、いや安室さんにそう呼ばれ仕方なしに側まで行く。助手だから、という理由で人前では呼び捨てである。

「朔さんもいらしてたんですね!」

蘭さんが笑顔でそう言った。その言葉に隣の鈴木財閥の令嬢が紹介しなさいよ、と急かしている。お父さんに弟子入りした安室さんの助手なの、と蘭さんが説明した。直接彼女を目にするのは初めてだが、日本に居ればメディアで間接的に彼女を目にすることは多々あるし、少年探偵団の諸君がよく話題に出していたので私とて彼らの交友関係を洗った。

「はじめまして、菅原 朔です。安室さんの助手をしています。」

「朔さんね!よろしく。」

調査資料にあった通り、彼女は令嬢ながらもとてもフランクな人柄のようだ。

「で?何があったんですか、安室さん。」
「どうやら、車内放送であった事故というのが殺人事件らしいです。」

その言葉に目を丸くする。
また、殺人事件に遭遇だと…こうなってくると町がおかしいというよりも死神でも誰かについているのか。

「調査するんですか?」
「もちろんです、とりあえず毛利探偵を探しましょう。」

その言葉にげんなり、とする。こっちは、今まで爆弾の設置をして飯さえ食べていないのに。そう思っていると、案の定ぐぅ〜〜とお腹がなった。

「すみません、食堂車で何かつまんでから合流っていうことでも良いですか?寝坊したおかげで、朝から何も食べてないんです。」
「はぁ…、貴女という人は。仕方ないですねぇ…」

バーボンから離れ、食堂車を目指して車内を歩いているとスマホが鳴った。念のために…と、このスマホには知人の名前で登録してあるのは数えるほどもいないため、番号が通知された状態で連絡が来ることがしばしばあるのだがこの番号には見覚えがありすぎた。スライドして、電話をとる。

「…珍しいね、そっちから電話してくるなんて。」
「君の潜入がバレたら大変だからね。お探しの血界の眷属の目撃情報がイギリスで上がったようだ。」

スプモーニは組織のNo.2と言われるラムに比べれば接触している人間は多く居たから、コードネームを自身が得てからはその容姿の情報を手に入れることは割と簡単に出来た。とりあえず、それをスティーブンには報告しといたのだが…さすが番頭。仕事が早い。

「そう、ありがとう。」
「どうやら、長老級(エルダークラス)ではないらしいから朔だけで大丈夫だろう。」
「……だと良いんだけど。じゃあ、切るね。」

長老級ではない、といってもこちらが苦戦を強いられる前提というのが何とも言えないものだ。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -