何とかなるかなと懐疑的に
何とか-何とかなるかなと懐疑的に
指定された場所は個室のあるバーだった。バーボンはまだ来てないらしく、ベリーニを注文しストローでピューレされた桃を突っつきながら待つことにした。すると、不意に影がさした。
「貴女がベリーニですか?」
「そういう貴方がバーボン?」
バーボンは給仕係に注文をすると向かいの席へと腰を下ろした。あえて、この返しをした私は悪くないと思うのだ。バーボンは私と同い年ぐらいの見目で色黒の肌に明るい色の髪をしている。
「…なにか?」
あまりにもバーボンのことを真っ直ぐと見つめすぎてしまったようで、あちらはこちらの視線に気付いていたようだ。
「バーボンのこと、外ではなんて呼べばいいのかなぁ…と思いまして。」
今回はバーボンのサポートとして、米花町に私は滞在しないといけないらしい。そのため実生活でも探偵である彼の助手としてサポートをしてほしい、というのを事前に聞かされていた。そこに、どのような意図があるかは知らないがバーボンが今弟子入りしているという名探偵の毛利小五郎が関係しているのだろう。なにやらベルモットが気にかけているようだし、ジンがFBIがキールを誘き出そうとした時の餌だったのが毛利小五郎だったとかこぼしていた。
「安室透、僕はそう名乗っています。」
流石に外でお酒の名前で呼んでいたら、こいつなんでお酒の名前連呼してるんだ、と白い目を向けられそうであるから重要である。
「そう、私は菅原朔って名乗るから改めてよろしく。」
「えぇ、よろしくお願いします。あと、これを。」
不意に目の前に突き出された手の中には鈍色に光るものがのっていた。これは、鍵…?
「僕の隣の家らしいですよ。」
「え。」
「えぇ、聞いてませんでしたか?ベルモットから。」
素知らぬ顔で言ったバーボンは聞いてないのか、という顔に変わっていた。そんなこと聞いてないよ!
「あと、家具はベルモットが全て手配してくれたらしいですが…ベルモットが此処まで気をかけるなんて、一体あなたは何者なんです?」
そう問われ、改めてその関係の特異性に目を向けざるおえなくなる。彼女との出会いは本当偶然だったのだ。そこからは、なんらかの作用が働いたかもしれないが。
「………彼女の命の恩人ってとこですかね。HLに居た彼女をたまたま助けたんですよ。」
大崩落から一年が経った頃、ニューヨークではなくなってから一年も経てば当初よりは日々の死ぬ一般人が少しは減っていた、要は慣れである。それでも、気を抜けば簡単に死ぬ…文字通り「地球上でもっとも剣呑な緊張地帯」であることに変わりはなかった。以前と変わったのは、外から興味本位でヘルサレムズ・ロットに来る人が増えたことだろうか。今から考えれば、ベルモットが其処に居たのは興味本位ではなく、組織からの命令によるものだったのかもしれない。
この街では、超常日常と超常犯罪が飛びかっているから他人の揉めごとに首を突っ込んでいたら命がいくつあっても足りない。だから、みな見て見ぬふりをする、それが当たり前となっていた。だからこそ、異界人に絡まれてるベルモットを見た時にまたか…と思ったし、その異界人が割とヤバいやつだって気付いた時には勝手に助けに入っていた。
「おねえさん、大丈夫?」
なんだ、テメェとか明らかにキメてる異界人が言ってるけど無視だ。とりあえず彼女を逃がさなければ。声をかける前にスマホを弄り、スティーブンの電話番号にコールしといた。彼なら状況を察してくれるだろう。
「…え、え。」
「じゃあ、このまま逃げて。ここは私がどうにかするから。」
この異界人はきっと最近流通してる新型のヤクを使用している。副作用で凶暴化しやすくなる、とスティーブンが今朝言っていたやつだ。入手ルートを暴く必要があると
「あなたはどうするの!」
「大丈夫だから早く…」
その言葉を最後に彼女は躊躇いながらも場を離れた。その様子を見ながら、持ち歩いていたリボルバーを異界人に向ける。
「そのヤク、何処で手に入れたか教えてくれない?」
「ハッ、いやだね!」
そういうと異界人は体を真っ赤にしたあと、どんどん巨大化していく。凶暴化は聞いてたけど、巨大化なんて聞いてないよ!
さすがに、手持ちのリボルバーで太刀打ち出来ないのでジーパンの後ろのポケットから一枚の紙を出す。ただの紙ではない、魔法円が描かれたものだ。足元に落ちていたガラス瓶の欠片で手の平を切り、流れた血を魔法円に垂らすと相棒の鉄乙女砲が召喚された。
でかい図体から想像出来ないぐらい早く動くため、トリガーを連続して引くがなかなか狙いが定められない為に命中率が低い。そもそも、私は遠距離からの狙撃やサポートを得意とするのだから面と向かって勝てる訳がない。そう思いながら相手の攻撃を躱していると、足元を氷晶が駆けて行くのが見えた。
「サク、無事か?」
「ナイスタイミング、スティーブン!そのまま動き止めといて!」
そのまま狙いを定めて、引き金を引いた。すると弾丸が撃ち込まれた場所から術式が展開し、炎が上がる。
鉄乙女砲はスナイパーライフルである。装填する弾丸は全て術式を組んである特別製だ。なので、これがないと私は血界の眷属が出現した時に役立たずだったりする。組んである術式も種類があり、対血界の眷属用以外に属性を付与したものだどが存在している。今放ったのは火の属性を付与したものである。
「はい、異界人の丸焼きの出来上がり!」
人間と違って異界人は一部欠けようが自己再生するものが多いから、このぐらいダメージを与えとかないとすぐ様復活する可能性があるのだ。
「相変わらず朔の攻撃の付与属性の術式は凄いな。」
「ふふ、ありがとう!」
ところで先ほどの彼女は無事に逃げられたのだろうか?そう心配していた翌日に彼女と街中で遭遇した。
「あら?貴女は昨日の…」
サブウェイを食べていた私に声をかけてきたのは昨日の女性だった。
「あ、おねえさん。無事だったのね!」
目の前の椅子に座った彼女を見て言う。相変わらず、スレンダーでスタイルの良いおねえさんだ。
「えぇ、お陰様で。貴女は大丈夫だったの?」
「あのあと、すぐに警察がきてくれたから大丈夫でしたよ!私、運動神経と射撃の腕が取り柄なんで。」
そう言いながらおねえさんの反応を伺う。実は昨日、スティーブンが人狼局特殊諜報課から仕入れた情報によると目の前のおねえさんは、血界の眷属がとある組織に潜入している、という匿名の通報があった組織の人間らしいのだ。以前から牙狩りから任務の打診が来ていたのは知っている…が、しかしその組織に潜入するにしても組織の加入条件しては身内に組織の人間がいるか、ヘッドハンティングされるしかないのだ。だから、必然的に偶然に組織の人間に接触し、ヘッドハンティングして貰えるように仕向ける必要があったのだが昨日の一件でその条件を私はクリアしているわけだ。
「貴女、凄いのね。どうしてそんなに強いか聞いても良いかしら?」
「HLでは自分で身を守るしかないから、必然的に強くなっただけですよ!」
そう言ったのは事実である。それに『自分が強くなってもバイト先が強くなってくれるわけじゃないんで、また職探ししないといけなくなりましたけど』と一言つけ加えた。さてさて、おねえさんはつれてくれるのか。
「まぁ……貴女今無職なの?」
案の定、つれてくれた。その言葉に頷く。それが彼女自身にも思惑があってのことなのか分からないけど、
「なら、うちの組織に来ない?ちょうど腕の良い人間を探していたのよ。」