Vendémiaire



フランス革命暦、それはフランス革命期にフランスと衛星国家で使われた独自の暦法である…

チョークを踊らせながら黒板に板書をする。革命暦が使用されたのは1793年のことだが結局、人々に馴染むことがなく忘れさられてしまった。コツリ、とチョークを置きクラスを見渡しながら言った。

「まぁ、こんなマイナーところはセンターには出ませんが…」

苦笑いをしながら一応そういうが、このクラスで一体何人の生徒が私の授業を聞いているのか些か疑問だ。そもそも、私は一身上の都合で辞めてしまった世界史の先生の代わりに非常勤講師として中途でこの高校の講師として採用されたのだ。一身上の都合というのも方便で、実際はクラス崩壊してるクラスを立て直そうとした結果モンスターペアレントが現れ辞めざる負えなくなった、というのがどうやら事実らしい。高3という受験前真っ只中で先生が変わるというのはあまり良くないことだ。まぁ、なんというか…その先生はきっと正義感が強かったのだろう。私は自ら進んで正そうなどとは微塵も思わないが。そんな時期なのに、センターに出ない範囲を何故教えているのか。いや、実際センターの出題範囲もちゃんとやっているのだが…今時の高校生は大学受験にあたり多くが塾に通っている。そのために、塾があるから…という理由に学校の授業を聞かない生徒がなにぶん多いのだ。それならば、別に私的な範囲を教えても問題はないだろう。必要な範囲は教えているのだから…と、まぁ自己完結に至りこの状況だ。

「では、今日の授業はここまで。」

一度言ってみたかったんだよな、この台詞。チャイムが鳴る五分前には授業を終わらせた。キリが良かったのもあるが、時間前に終わらせることによって僅かだが生徒からの好感度を得ることが出来る。授業が終わったことにより、僅かだが授業中に潜められていた声は大きくなる。これが、受験をあと数ヶ月に控えた高校生なのか。私の頃は授業の合間も受験勉強に励んだというのに…ああ、あれか?県内トップ校ゆえの余裕というやつなのか?そう思いながら手元の授業道具を片付け廊下へと出た。

「……先生、葛木先生!」

廊下を突き抜けたその声に肩を揺らしながら、追いかけてきた少年の方へと足を止め振り返る。

「どうしたの、夜神くん…?」

よりにも寄って全国模試一位に引き止められるとは。彼のことは、この高校へ来て同僚の先生方から耳にタコが出来るほど聞かされたというものだ。まるで絵に描いたかのような容姿端麗の秀才。

「さっきの授業に関して質問があるんですけど…」

おお、まさかの秀才からの質問か。それは凡人の私に応えうる質問なのだろうか?

「ごめんね、何処か分かりにくいところあった?」

先に言おう、私は正直世界史に関しては人並みの知識しか持っていない。なぜならば、私の専門は日本史だから。先程のどうでも良い豆知識はフランス革命を描いたレ・ミゼラブルに魅せられたからゆえの知識である。教員とは時に専門外の分野のお鉢が回ってくるのだ。まぁ、一括りにしてしまえば、どちらも歴史なわけで。さらにくくると社会という枠組に政治やら地理やら含まれてしまうなんとも面倒なことだ。

「え、いや…そんなことないですよ!葛木先生の教え方はとても分かりやすかったです。」

彼からの返答は果たしてお世辞なのか、目を見開いたその様子からするに事実なのだろうが。

「…そう?ありがとう。まだまだ新米講師だから教えることに慣れてなくてね…で、質問だっけ?」

「はい、ここが分からなかったんですけど…」

彼は教科書をずい、と出してそう言った。

「あぁ、此処は〜」

私でも辛うじて分かる範囲だったから、補足を入れながら説明する。確かにこの教科書の内容では上下関係の内容からして分かりにくいかもしれない。そうやって教えてると、休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴った。教えるのを止め、早く教室に行くように夜神君を促す。彼は教室まで走り出したとこで、いきなり振り返り手を振った。

「先生、ありがとうございました!」

その屈託のない笑顔がとても印象的だった。
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