言葉はいつだって脆いから
「サク、今年はクリスマスパーティーを行うんだ!」
それは、いつもの如く必要の部屋でティータイムを楽しんで居た時にルイスが唐突に言い出したのだ。
「はぁ?いつも開いてるんじゃないの。」
思わず拍子抜けした声をあげてしまったのも無理ないことだと思う。クリスマス休暇は私のように奇特な者でない限り基本的に実家に帰るのだ。そしてクリスマスパーティーを開きお貴族様は人を招待する。
「あぁ!でも今年はホグワーツの五年生全員招待することになった。」
それはまたなんというか、さすがお貴族様というべきか。
「だから、もちろんサクも来るよな?」
肩をガシッという効果音がつきそうなぐらい強く握られ、揺さぶられそう言われた。
「申し訳ないけど、ドレスなんてもの持ってないから無理よ。」
確かに実家にはドレスはあるが、今や戦時中。そんな贅沢物は没収でもされてるのではないか。ただでさえ、我が家は監視されているから送って貰うことなど出来やしない。一応、お気に入りの着物だけはこっそり持ち出してはいるが。
「そんな理由で辞退させるつもりはないからな!ちゃんとサクが似合うドレス見繕うから!」
その言葉に思わずはぁ、と溜息が漏れる。ルイスはなんだかんだで、こうして私の側に居ることが多いがリドル同様彼は多くの生徒に慕われている。ただ、それは憧れとかではなく親しみやすいという概念から来るものだから、彼の取り巻きのような重苦しいものは孕んでいない。ルイスも顔良し、血筋良し、勉強面は折り紙付きであるが…
「まぁ、良いけど…とうか、私が行っても本当に大丈夫なわけ?」
ただでさえ、今日本は諸外国を敵に回しているのだから。最も、この状況に陥った大幅な原因は陸軍の暴走によるものだから彼らをどうにかしない限り事態は好転しないのかもしれない。私の実家に限っては呪術師という家系ゆえに軍部に監視されている。軍部に呪いをかけないようにとか、戦争にその力を利用出来ないか。とか…そもそも明治の文明開化の際に時の政権はそういった非科学的ものを西洋から見下されては困ると実質排除したのだから、頼られてもお門違いというものだ。実際問題、長き血筋とはいえどその血は確実に薄まりつつある。最近でその力が強いと言われてるのは先祖返りと言われた私と、亡き祖父である。
「魔法界の連中は基本的にマグルの情勢に疎いしなー、多少問題があるとするならばマグル出身者の、そうだな…大日本帝国と対立する国生まれだと些か問題が起きるかもしれないが、俺が牽制するから問題ないさ。」
ルイスは丹狐の背中を撫でながらそう言った。
「………そう、相変わらずね。」
思わずそう溢すと、ルイスは光栄だとばかりに笑みを浮かべた。
その時、丹狐が急に耳を立てルイスの膝から降りた。
「…どうしたんだ、ニコ?」
ルイスが困惑したように声をかけるが、丹狐は全くといって良いほど反応せず、何処か空を見つめている。……嫌な、予感がする。そう、祖父が亡くなった日も丹狐は同じような行動をとった。
「……士朗が死んだ。」
ゆっくりと、開かれた丹狐が口にした言葉はやはり訃報で。
「父様が、」
手にしていたカップが滑り落ち、その熱い液体が床に散らばる。
父が徴兵されたのは昨年のことだったか。戦争が長引くにつれ陸軍は装備不足を兵員の増加によって補おうとした。その政策はこの戦争における戦術的過ちであろう。戦争が始まった当初は技術のある軍人がたくさん居たのに今や徴兵されて短期間の訓練を受けた人ばかり。それでは勝てるものも勝てやしない。ついには若者まで徴兵して、未来を作るのは若者なのに彼らが居なくなったら誰が未来の日本を作るのか…
「サク……、気をしっかり持て」
そう言いながら、ルイスは涙を流す朔の背をさすった。
「…………ありがとう、ルイス。」
いつか、こうなってしまうのではないかという懸念はしていた。いくら、ホグワーツで成績優秀であろうと私には家族を救うための術がない。
「…落ちついたか?」
「えぇ。」
ゆっくりとルイスは朔をソファに誘導して座らせた。そして、丹狐に視線を合わせた。
「ニコ、どうしてお前はサクの父親が亡くなったと分かったんだ?」
サクから祖父が亡くなった時の話は聞いていたから、もちろんニコがそのような行動をとることは知ってていた。契約者の生死を判別することならいざ知らず、ニコの契約者はサク本人である。では、何故分かったのか。
「オイラ達、妖狐はお互いテレパシーを飛ばすことが出来るんだ。朔の家に使役されてる狐は多く居るからな、長くこの一族に寄り添って生きてきたぶん絆が強いんだ。士郎
と契約していた狐はオイラの従兄弟だからな…」
その言葉にルイスがなるほど、と呟いた。