しあわせをあざわらう



五年生である私たちはOWL試験が今年の学期末に控えている為、日頃から図書館に引きこもる生徒がチラホラと出始める。まぁ、授業内で出された課題を進める為だったりなど目的は人それぞれのため一概に言うことは出来ないのだが。私は自室に図書館から借りた参考書を広げ、こうして課題をやっているわけなのだが…

「あーるじっ、遊ぼうぜ。」

部屋に間延びした声が響き、その声が私のやる気を削いで行く。尻尾がひゅい、と音を立てカリカリと書いていた羽ペンを奪った。尻尾が四本あるなんて便利ですこと。

「丹狐(にこ)、貴方の辞書には大人しくするという言葉はないの?」

「…ないねっ!」

七百年も生きているはずなのに、どうしてこの狐はこうも即答で断言してくるのか。普通は齢を重ねれば落ち着きがつくはずではなかろうか。

うちの一族は代々妖狐を使役している。私も例に違わず、こうして赤狐の丹狐と契約を交わし使役しているわけなのだが…妖狐にも位というものがある。赤狐は白狐と同位で、位としては仙狐、気狐に相当する。分かりやすく言うならばお稲荷さんの神使だ。だから丹狐も狐の中では位が高い方である。本来学校には、カエルやフクロウ、ネコなどしかペットとして持ち込むことは出来ないのだがダンブルドア教授の口添えによって特例として認められたのだ。最も、普段は丹狐自身隠行しているため余程魔力があるものか、そういった才能がある人間にしか見えないのだが。丹狐の様子に嘆息していると不意に質の良いバリトンボイスが降ってきた。

「その狐はミス,朔のペットかな?」

その声にハッと顔を上げるとプラチナ・ブロンドに灰色の瞳を持つ先輩がこちらを見下ろしていた。

「えぇ。マルフォイ先輩は丹狐が見えるのですね。」

アブラクサス・マルフォイ先輩は、監督生を務めるリドルの前任で現在七年生の先輩である。マルフォイ家は魔法界では上位に位置する純血の貴族だそうで、所謂マグルへの偏見がとりあえず半端ない。だから、何故私にこう話しかけてきたのかが正直不思議でならない現状である。

「…ふむ、私と君以外にはこの狐は見えていないようだね。条件を聞いても?」

「……才ですかね。」

此処で魔力があるからでは、というのはなんとなく憚かられる。この先輩はリドル達と何やら秘密裏に何かをしているようだから、なおのこと。

「なるほど、才能か。」

まるで面白い、というかのように口角を上げる先輩を呆然と眺めていた。私…不味いことを言ってしまったのか、これは。

「勉強しているところを邪魔したな…すまない。」

先輩はそう言い、その場を後にした。

私がガックリと脱力していると、丹狐はまるで慰めるかのように頬ずりをしてきているが、正直慰めになっていない。
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テーマ「人外ファンタジー」
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