黄昏刻の悪夢



今年もこの時期がやってきた。新入生が大広間に入り、その装飾に驚いている。天井には魔法によって夜空が描かれロウソクが浮遊している。広間の真ん中を注目を受けながら目を輝かせ歩む一年生は、まるでいつかの私を思い出す。つい数年前、私もあの場所に立って居たのだから。教職席の中央前に置かれた使い古された帽子が一年生が皆来たのを確認したかのように、唐突に歌を口ずさみ始める。歌の内容はこの学校の創設に関わるものだったり、未来を予知するものだったり、と毎年違うが新入生がこれから所属することになるであろう各寮について語る部分は、ほぼ同じだろう。

「…スリザリンではもしかして 君は誠の友を得る?どんな手段を使っても目的を遂げる狡猾さ」

四つの寮を歌い終わると帽子は黙り込み、副校長でありグリフィンドールの寮長でもあるダンブルドア教授が新入生の名前をアルファベット順に呼び始めた。帽子は高らかに新入生に寮を振り割して行く。毎年思うのだが、新入生の個性で寮を割り振っていて人数は偏らないのだろうか。四つの各寮に同等に新入生が割り振られるというのはまずあり得ないだろう。そんなことを考えている間に最後の新入生の寮が決まったようだ。ディペット校長がお決まりの新学期の一言二言を述べた後、指を鳴らすと今まで空っぽだった机の上に豪華な英国料理が並ぶ。新入生がその様子に感嘆の声を漏らす。が、私はその様子に思わず顔が歪む。確かに最初は感嘆するのだが、如何せん英国料理を毎日出されると純日本人の私にとっては脂っこくて胃に来るのだ。しかも、それが五年目となれば尚のこと。

「サク、顔色が悪いみたいだけど大丈夫かい?」

顔をしかめたまま、フォークでミートボールを突っついていたところ…ななめ前から声をかけられた。

「……お気遣いありがとうございます…大事ありませんゆえ、お気になさらず。」

いかにも心配気に眉を下げ此方の様子を伺う好青年、私の気が重いもう一つの原因である。

「そう?なら良いんだけど…僕達はこれから新入生の引率があるからね。無理そうならすぐ言いなよ?」

「えぇ…そのときはお言葉に甘えさせて頂きます。」

その言葉を聞いた後に彼は包み込むような微笑みを此方向けた後、また取り巻きと談話を再開した。この好青年はホグワーツ魔法魔術学校始まって以来の秀才と呼ばれ、容姿・性格共に良く万人受けし、人を惹きつける才能を持ついわゆる優等生である。私が所属するスリザリンでは万人受けする人間は珍しいといっても過言ではない。なぜなら、スリザリンは他寮と違い“血”をなによりも尊ぶから。そんな秀才なトム・マールヴォロ・リドルは監督生に選ばれた。カリスマ性を持つ彼なら妥当だろう。監督生は基本的に五年生になると校長から抜擢され、男女一人ずつの監督生が存在する。そして、女の監督生して選ばれたのがこの私だった。確かに勉学には励んだが、皆をまとめるという目立つ立場には立ちたくなかったのが本音だ。あまつさえ、彼は女子生徒に人気がありファンクラブが存在するとも言われているのに職務があったとしても、彼女達にとって私は目の上のたんこぶでしかない訳で。これからの学生生活に支障をきたすとしか思えない。嗚呼、あと追記するならトム・マーヴォロ・リドルはでっかい猫を飼ってる類の人間だ。周りは気付いていないようだが、幼馴染が同タイプの人間だからなんとなく彼には違和感を持っていた。それが確信へと変わったのは所謂、見てはいけないものってやつを見てしまったからに他ならない。そのことを彼が気付かなかったのは幸か不幸か……

油っこい料理が生徒によって粗方減ったところで、皿は一掃されデザートが並んだ。プディングにフルーツ、ゼリーやケーキ、クッキーといったものがテーブルを彩った。英国のデザートは青や緑など何処から出てきたのだという色彩をしていて正直、食欲が落ち込む。まだ、和菓子などの練り切りなどのが色に品があると言えるだろう。そう考えると日本のものは繊細なものが多い気がする。私はスコーンを片手に紅茶を飲むことにした。先ほどの料理にはあまり手をつけなかったから…スコーンは素朴だからこそ素材の良さが出る。これらを全て作っているのが屋敷しもべ妖精だというのだから最初は驚いたものだ。

「そろそろお開きにしよう…では、最後に校歌を歌うぞ」

校長が杖を一振りすると音楽が流れ出す…皆一斉に歌い出すが例年通り今年もテンポが合わず不協和音と化している。もちろん、私は口パクだ。

「監督生の諸君、一年生を寮まで引率するように。」

その言葉を皮切りに生徒が一斉に動き出す。

「スリザリンの一年生はこっちだよ。」

リドルが先導するのを横目に私は取り残された生徒がいないか確認しながら最後尾につく。わざわざ監督生が二人揃って先頭にいる必要性はないだろう。

寮に入る為には合言葉を寮の入り口にかかっている絵画に言わないといけない。

「合言葉は純血だ。これがないと寮に入れないから一年生はくれぐれも忘れないように。」

リドルはそう言い、中に一年生を誘導した。取り残された一年生がいないかあたりを見回しながら後に続いた。スリザリンの寮は地下にあるが、寮生の気質なのか備品は質の良いものがとても多い。もしかしたら卒業生が寄付しているかもしれない。寮内は談話室と女子と男子の部屋の三つがある。噂によると、男子が女子の部屋に入ろうとすると魔法が作動して痛い目に合うとか…

そんなことを考えていると、辺りにいた生徒は殆んどいなくなっていた。

「サク、お疲れ様。」

「えぇ、トムもお疲れ様。」

そうそう、以前から思っていたのだが何故英国人はそれほど仲が良くなくても名前で呼ぶのだろうか。周りに合わせて私も彼のことをトムと呼んでいるが、違和感しかない。

「じゃあ、私はこれで。」
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -