男にキスされて勃つとか、ありえないんだけど。
自分の身体の変化に恥ずかしくて視線を逸らせば、俯いたところを掬うように軽く唇を食まれた。
「答えは出た?」
それが、この人と付き合うことの答えだと気づくのに、数秒かかった。
確かに、嫌じゃなかった。でも。
「それは、巽さんのキスが上手いから……」
「かわいい言い訳だね」
駄目だ。完全に、この人のペースに持ち込まれてる。 密着した身体が、溶け出しそうなぐらい熱い。さっきからすごい勢いで胸を打つ心臓の音も、きっともう伝わってる。
「今からりっちゃんは俺のものね。何もすぐに取って食おうってわけじゃない。半年待ったんだ。少しぐらいなら待つよ」
「そんな強引な理屈」
言いかけた言葉を、俺は呑み込む。─── 半年?
「りっちゃんは今、彼女と別れたところでフリーだ。ずっとうまくいってないことには何となく気づいてた。でもそこに俺が付け入れば、りっちゃんは余計に混乱する」
だから、ちゃんと別れるまで待ってた。
そう言う口元は笑ってるけど、瞳は真剣だ。からかわれてるわけじゃないことは、もうわかっていた。
「 ─── 確かに俺は、ずっと巽さんに憧れてて。だけど」
「その憧れと恋は、どう違う?」
面と向かって尋ねられて、口籠ってしまう。
巽さんみたいになりたいと思う。一緒にいると安心できる。いざという時に頭を掠めるのは、巽さんのこと。そういうのは全部、憧れで片付けられるのかもしれない。けれどそれだけでは、今抱きしめられてドキドキしてるのがどうしてなのかを説明することができない。
「わかりません」
正直に答えれば、巽さんはおかしそうに笑った。身体に回された腕に力が籠もる。
「でももう、捕まえたから。離さないよ」
また顔が近づいてきて、至近距離でそっと囁かれる。
「好きだ」
酔ってるのは、俺の方だ。
再び重ねられる唇の感触を今度はちゃんと確かめながら、とりあえず今自分の立たされている場所にしがみつこうと、俺は広い背中に両腕を回した。
"Starting Line" end
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