窓の外に耳を澄ませれば、聴こえてくるのは静かな雨垂れの音。閉ざされた世界に降り注ぐ雨は、夜に溶けていく。もう一度シャワーを浴び終えた千捺は、腹が立つぐらいスッキリした顔で俺の隣に潜り込む。自分のベッドで寝ろと言ってるのに、全く聞く耳を持たない。「ねえ、奏。世界最後の日は、どんな天気だと思う?」肘をついて身体を起こしながら、おもむろにそんなことを訊いてくる。突拍子もない質問だ。相当呑んで帰ってきたのは間違いないから、酔っ払いの戯言なんだろう。「何だよ、それ」「いいから答えて」煌めく瞳が俺の顔を映し出す。それこそ答える義務も義理もないけれど、雨音を聴きながら俺は律儀に付き合ってやる。「雨だな」「そっか。俺はね、晴れだと思ってるんだ。だから、雨だったら奏の勝ち。晴れだったら、俺の勝ちね」俺も千捺も、世界が終わるよりずっと早く死んでしまうだろう。一生決着のつかない賭けだ。それでも千捺は、なぜか満足げに笑っている。「天気雨だったら、2人とも勝ちだね」何の話だ。呆れる俺を物ともせず、千捺は肌寒さを凌ぐように俺の身体に擦り寄ってくる。「俺の世界が終わる日は、つまり俺が死んじゃう日ってことじゃない? まあ、ずっとずっと遠い未来かもしれないけど」その日を奏と一緒に過ごしたいんだ。小さな囁きは確かにそう聞こえて、俺は自分の耳を疑う。「……なあ、それどういう意味だよ」それまでこうしてお前に振り回されないといけないなんて、冗談じゃない。「つまり、それぐらい奏とするエッチが最高だってこと」いつものように適当なことを言って、千捺は俺を翻弄する。その柔らかな髪を撫でながら「早く寝ろよ」とあしらえば、ゆっくりと瞼を閉じて小さく頷いた。「ん、おやすみ」世界最後の日の天気、ね。浅い呼吸が安らかな寝息に変わっていくのを聴きながら、俺はこの歪んだ世界が永遠に終わらないことを願う。"Rainy, Sunny side K" end - 5 - bookmarkprev next ▼back