ジュンヤはもうグッタリとしてて、一応足は動いてるけど、多分もう半分以上意識は飛んでる。だから、こいつが生命の次に大事にしているベースやエフェクターの類も、今はすっぽりと俺の背中に収まっていた。「うん、なんかテンション上がってさ。ちょっとやり過ぎたな」そんなことを言って適当にごまかす。特別なあの場所なら、あれぐらいのことは許される気がしたんだ。「ケント。お前の下宿先、こっから近いよな。ジュンヤを泊めてやってくれよ」ナツの言葉に、ドキリと心臓が跳ね上がる。「へ? なんで? ナツとジュンヤは近所なんだから、一緒に帰ればいいよね」オサムの言い分はそっくりそのまま俺の言い分でもあった。「この状態で一緒に電車に乗れるか? うちまでタクシーで帰ったら一体幾らかかると思ってるんだよ」そう言いながら立ち止まり手を上げて、ナツは空車のプレートを付けたタクシーをとめる。「ほら、頼むぞ」妙な笑顔を向けられた上に押し込むように後部座席に乗せられて、俺は泥酔したジュンヤと帰ることになってしまった。1000円札で釣りがくるぐらいの運賃を払ってタクシーを降りた後、俺はジュンヤを抱え込みながらハイツのエントランスをくぐり、自分の部屋まで連れていく。細身だと言っても脱力した男を支えて歩くのは一苦労だ。1階に住んでいてよかったとつくづく思う。鍵を開けて部屋に入り、とりあえずベッドまで運んで降ろしてやれば、ジュンヤは小さな呻き声をあげながらうっすらと目を開けた。「……あ、れ?」額にはうっすらと汗が滲み、ほんのりと色気を放つ。ライブの最中によく見せる、匂い立つような艶っぽさだ。「ここ……ケントんち?」「ああ、そうだよ。この酔っ払い」俺はそのきれいな顔を覗き込みながら軽く悪態をつく。普段なら倍にして言い返してくるはずなのに、今はそうじゃなかった。「うん、そっか」なぜだか納得している。素直過ぎて、拍子抜けだった。ぐったりとベッドに横たわったまま、ジュンヤは少しだけ掠れた声で喉の渇きを訴えてきた。「ケント、水」大概にしろよ、と思いながらも俺は立ち上がり、キッチンまで行ってグラスに水道水を入れてやる。「ほら」グラスを顔の前に出してやれば、眠そうに瞬きをしながら、トロンとした目をこちらに向けてくる。「無理。起きられない」 - 7 - bookmarkprev next ▼back