PARAMETRIC LANDSCAPE[6/9]

ステージの上は、楽園だ。

照明の眩しさも、音の大きさも、オーディエンスとの一体感も、ここに勝る場所はどこにもない。

ここから見える景色が俺は何よりも好きで、だからこそ他のメンバーの足を引っ張らないよう、必死にやってきた。

ここに立ち続けたいと、思ったから。

熱気に包まれたホールに響くギターリフから始まるアンコール曲は、初めて俺が歌詞を作ったナンバーだ。


『PARAMETRIC LANDSCAPE』


ここでしか見られない風景の歌。

出だしのフレーズをマイクに乗せた瞬間、今悩んでいることなんて全部どうでもよくなってしまう。

そして、左後方から近づいてくる気配に、俺は振り返る。

ライトを浴びて光輝くのは、ベーシストの美しい立ち姿だ。

はだけたシャツから見える肌が汗に濡れて艶かしい。

その顔には、そいつがこの場所でしか見せない極上の笑みが浮かんでいた。

ああ、きれいだな。

技巧的なギターソロが鳴り響く中、俺はジュンヤの肩を抱き寄せて唇を奪う。

驚いたように見開く瞳の奥に、小さな焔が灯る。

ぶわりと身体中から何かが溢れ出してくる感覚を味わいながら、俺はかつてない昂揚感に包まれていた。






「あれには参ったね」


今日何度目かもわからないナツのボヤキが聞こえる。


「俺のソロとか、誰も聴いてなかったし」


オサムの呑気な声が被さるように後ろから飛んでくる。


「うん。俺もびっくりしてあそこでスティック飛ばしちゃったからね、はは」


「マジかよ。それ、多分誰も気づいてないな」


「いや、結構派手に飛んでったよ。自分でもびっくりしたもん」


いつもライブの後は7割の確率で出待ちの適当な女の子と消えてしまうジュンヤは、アンコールが終わった後も呆然と楽屋で立ち竦んでいて、心配して声を掛けたオサムにポツリと零した。


『おい。今日は呑むからな』


その言葉どおり、俺たちはそのまま4人で近くの居酒屋での打上げに雪崩れ込んでいた。

その後のジュンヤは珍しく異様なピッチで呑み続けて案の定酔い潰れてしまい、今はナツと俺に挟まれてふらつきながら歩いている。

行き交う人にぶつからないようにするのに一苦労だ。終電間際の時間帯でも、繁華街は人工的な光を撒き散らしながら忙しなく動いてる。


「ジュンヤは酒に弱いんだよ。だからいつも乾杯の1杯目しか呑まない。それも、あえて俺らの前では呑まないようにしてるというか」


「じゃあ、何でまた今日は」


「ケントのせいに決まってるだろ」



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