PARAMETRIC LANDSCAPE[9/9]

震える声でそう言って、視線を逸らす。その顔が、無性にかわいく見えて。

手元に置いていたグラスの水を呷って口に含んでから、泣きそうに揺らめく瞳に吸い込まれるように口づけた。

口移しで水を流し込めばジュンヤは目を見開いて、それでも喉を鳴らしながら何度かに分けて飲み込んでいく。


「 ─── ん、ん……、ちょっ」


「お前が水飲みたいって言ったんだろ」


角度を変えて唇を塞ぎ直せば、押しのけようとするその手から力が抜けていく。

開いた唇の隙間に舌を滑り込ませて、吐息ごと舌を絡め取る。そのままベッドに乗って上から覆い被されば、細身の肢体に力が篭っていく。押し潰さないようにゆっくりと体重を掛けていくうちに、諦めたように組み敷いた身体が弛緩していった。

そうだ、おとなしくしろよ。お前が煽るのが悪いんだ。

舌を動かす度に響く濡れた音を、耳がきちんと拾っていく。

触れ合う全部が熱くて、ああこいつは本当に酔ってるんだなとわかった。


「ん……、ケン、ト……」


唇を離した瞬間俺の名を呼ぶ甘い声は、どんな音楽よりも俺を熱くさせる。このまま、全部俺のものにしてやりたい。


「ジュンヤ、好きだ」


心の奥底に閉じ込めていた感情が、急激に溶け出していく。


「好きだ」


もう一度、想いを口にして、唇を啄ばもうとしたそのとき。

鼻先から、安やらかな寝息が聞こえてきた。


「 ─── おい」


ジュンヤは深い眠りに堕ちてしまっていた。


本当に、酔ってたんだ。


完全に行き場をなくした情動を抱えたまま、俺は溜息をついて酔い潰れたベーシストの脇に寝転がる。

きれいな寝顔はあどけなくて、まるで泣き疲れて眠ってしまった子どものようだ。






賭けをしようか、ジュンヤ。

目が覚めたとき、お前がこのキスを憶えていれば、俺はお前と同じ夢を追いかけるよ。






ゆっくりと目を閉じれば、瞼に映像が浮かんでくる。

広い空間を揺るがすように鳴り響くのは、DARWINのメンバーが演奏する聴き慣れたフレーズだ。

無数のスポットライトを浴びながら、俺は全身全霊を込めて歌っている。

隣で情緒的なリズムを刻むのは、顔はきれいだけどちょっと口の悪いベーシストだ。

アンコールが終わり、目映い光で白んでいくステージの上で、俺はお前の手を取って高く掲げるだろう。

目を合わせてから2人で前を向けば、ステージを囲む大勢のオーディエンスが歓声を上げているのが見える。

それは、お前としか見ることのできない、最高のヴィジョン。







『PARAMETRIC LANDSCAPE』







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