「今日の部活はミーティングだけだから、ちょっとだけ待ってて欲しいの。終わったら一緒に帰ろうね!」
可愛らしい笑顔で誘われたから待っているわけではない。ミーティング終わってからなんて、レギュラーの面々と顔を合わせる確率が高くなるのだから、正直、先に家に帰ってしまいたかった。それなのに、何故、そうしないのか。
…しないんじゃない。出来ないのだ。帰り道を覚えていないのだ。自分の家がどんなものだったかわからないのだ。登校中は考えることに必死だったんだもの、仕方ないじゃない。
「ふーん、アンタが……」
突然、真横から声が聞こえるんだから驚いた。ニヤニヤ笑うモジャモジャ男。
「見た目はフタ子センパイそっくりっスね!さすが双子〜」
にまにま。じろじろ。顔を近付けで頭のてっぺんから、足の先まで。それはもう、舐め回すように見られるのだ。良い気はまったくしない。むしろ不快。
「…人にジロジロ見られるの、嫌なんだけど」
そう呟いた途端、彼の顔色は一瞬にして変わる。興味から、軽蔑へ。
「なんスか、性格は全然可愛くないみたいっスね」
人懐っこいところとか、赤也のそういうところが大好きだった。だけど実際は、落ち着きもなく素行もよろしくない、物分かりも悪く、しかも暴力に物を言わせる、大嫌いなタイプだ。
こういうタイプは無視に限る。そう判断して、特に彼の言葉に腹を立てることもせず、黙りを決め込んだ。
私が何も言い返さないことに、これ以上絡んでも仕方ないと判断したのか、
「つまんねー女」
それだけ吐いて私の前から姿を消した。そう、それでいい。