精市と別れて、ようやく一日中私を捉えていたものを解放できて、すっきりした気持ちで角を曲がったら。
すぐに雅治に出会った。出会ったというか、待っていたと言わんばかりの待ち伏せ…もしかして精市とのやり取りまで見ていたんじゃないかな…。
「ようやっと決着ついたらしいのう」
彼特有のにんまり笑い。やっぱり知ってたんだ。だけど、どことなく嫌味がなくって、むしろ優しい言い方。
仕返しの如く、私も彼に投げ掛ける。
「ねえ、雅治はどうなの?落ち込んでたみたいたけど、もう解決したの?」
今の雅治も私と同じようにすっきりしているような、だけどちょっと元気がないような。ふーむ、と少し悩んでから彼は再び微笑んだ。
「失恋じゃ。しかも二度も」
失恋?この雅治が?二度も?
彼は大袈裟にブイサインを両手とも作り私に強調したあと、そのまま頬を日本の指で挟む。ブン太より全然痛くない。けど、彼に遊ばれるのは腹がたつ。
「一度目はフタ子じゃ。俺は今までフタ子のこと好いとった」
「は…はりはとふ」
「…フタ子は自分で思っとる程、誰も傷付けとらんし、そのまんまでええんじゃ。今回はよう頑張ったしのう」
そして、頬を摘まんでいた指を外し、今度は私の頭を撫でた。すごく子供扱いされている気分、否、実際にされているんだけど。
もしかして、精市に『おまえがフタ子を見ていないくせに』なんて言ったのは雅治なんじゃないかな。精市のことだけでなく、ブン太とのこと、今日あった全てのことを彼は知っているような。
「で?これからどうするかは決めたんか」
「わたし…………」
私なりに全ては解決した。ただ、それがきっかけで新しいことに気付いた。だけど、それは焦ることでもないような気がするし。
「これがフタ子にとっての最善じゃと思うんか?」
…なんて逃げてるようじゃダメなのだ。
今日一日悩んで悩んで逃げて、でも結局選ばないと進まなくて。私の頭を占める予感。選ばないことだけが"待つ"ことじゃない。選んでもらうまで待つ。あの人なら待てる。あの人なら待っててくれる!
「やっぱり、雅治は今日一日私のことを見守っててくれたんだね。ありがとう!」
何の事だか、なんてとぼけているけど、本当は全部わかってるくせに。
「私も、いつでも雅治の味方になるからね!」
「そりゃ頼もしいのう」
彼の、みんなの力になることなら、私は何だって出来るんだもの。
「…名前って名前、知っとる?」
「え?んー、知らないけど」
彼は手をやる気なくぷらりと振ってから去っていった。