黒歴史 | ナノ

 帰り道、一人。誰とも約束していないのだから当然かな。…いつもなら赤也やブン太達が待ってくれていそうなものだけど。一人は少し寂しい。

「フタ子」

 そして。私を呼ぶ声が後ろからした。なんとも威圧的な、けれど静かな声。この声は、告白の途中で逃げてから、お昼休みの時も、ミーティングの時も、ずっと避け続けていた彼のもの。その精市が、いよいよ私の前に直接現れたということだ。

 足を止める。息を吸う。彼の気配を背後に感じる。恐い。息を吐く。だけど、散々逃げて精市を傷付けたんだから、私は今日一日考えたことを彼にぶつけるんだ。もう一度息を吐いて、振り返った。

「…今日一日ずっと避けられていたし、逃げられると思った」

 そう、彼は自嘲気味に笑った。私は泣きたくなる気持ちを抑えた。
 彼は強そうに見えて、とても弱い人。涼しい顔をしていながらも、どこか自分に自信がない。拠り所がないと不安になる。弱い人、とても弱い人。

「私、どうすればいいのかわからなかった」

 彼は笑みを消して、私からの言葉を待った。足が震える。声も震える。緊張して。恐くて。辛くて。悲しくて?

「だけど、ちゃんと考えた。私は、みんなでずっと一緒にいたい。誰かを特別に想うことで、今までの関係が壊れるなんて、そんなの嫌」

 蓮二が"精市と付き合ってからの確率"を出したように、私もその事はかなり本気で考えた。恐いとは思ったけれど、元々彼のことは"好き"だし、弱い人だから守ってあげたいとも、ずっと一緒にいることも可能だと考えた。
 だけど、やっぱり。

「ごめんなさい。だから私は精市とお付き合い出来ません。精市を好きになることは出来ません」

 みんなと一緒にいることをなくしてまで精市を愛せない。精市を守ってあげたいけれど、精市だけを愛せるようになるまで待ってくれないのなら、それなら私はまだ自由でいい。私は、自分の我が儘も受け入れてくれる人を選びたい。


「あはは、」

 私の言葉を聞き終えた彼は、その場にしゃがみこんでしまった。元気のない笑い声。

「言われたよ。『お前がフタ子を見ていないくせに』って」

 誰に?
 それは言わなかったけれど、彼の顔は哀しげながらもどこかすっきりしていて。綺麗で。もう精市を恐いとは思わなかった。

「俺が男を積んでまた告白し直したら、フタ子は受け入れてくれるのかな?」
「どうだろうね」

 だって、私には、私の理想には、既にひとりしか当てはまらなくって、もう彼しか考えられなくなっているんだもの。気が早い?だけど、大切にしたいこの気持ち。

 精市に手を差し出して、返された手をしっかり握って引いた。彼を起こしてはあげられるけど、その手をずっと握っていることを、私は選ばなかった。

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