階段を上る足が震える。普段から部活で鍛えられているはずなのにな。怖い?…だけど、誰かに嫌われる方が、みんなと一緒にいられない方が怖いんじゃない?精市のようにブン太まで裏切っちゃいけない、そんな気がした。
扉を開けると、奥の方で立っていた。いつも何かしら頬張っているのに珍しい、ただ屋上を抜ける風にぼうっと吹かれているだけの彼。
私に気づいて微かに笑った。
「話がある、って呼び出したんだから、だいたい予想は付いてんだろい?」
やっぱり私の予想通りに進んでいく。ジャッカルに聞いた時に全部察した、そのままその通りに。彼は少しだけ目線を下に、強張る私から反らす。
「そう恐い顔すんなよ。幸村くんのせいで、告白が若干トラウマになってるのも知ってるから」
彼の声のトーンはいつもより少し落ちているが、重くはない。私に気を使わせないようにする、そんな気遣いが見える。
ブン太も、告白のことを知っていたんだね。そして悩んでいる事も知っている。いつからだろう、お弁当の時には既に知っていたとか?ブン太にも伝わってしまうほど、精市に辛い想いをさせていたんだろうか。なんて…考えても答えは出ないけど。
彼はこちらにゆっくり一歩、また一歩と近付く。手を伸ばせば届いてしまう距離まで。精市の時は怖かった。だけど、ブン太はちょっとだけ苦い顔で、それなのに笑うから…。
「俺、フタ子がずっと好きだった。みんなで仲良くするのも嫌じゃねえけど、いつか二人だけでお互い好き合えたら良いって思ってた。……まあ、今もだけど」
彼の笑った顔がこんなに切ないなんてことあったかなあ。無理に笑っているんだろうか。私のために。一生懸命に想ってくれているのだろうか、私だけのために。
「フタ子は俺のことどう思ってる?みんなと一緒にいる時間を削ったり、壊してまで、二人で一緒にいたいと思う?」
―首を振った。
ブン太のことも大好きだ。私を安心させるためずっと微笑んでいてくれるところ、何もわからない私をゆっくり導いてくれるところ。そんな優しいところが。けれど、私はブン太と同じだけ"好き"を返せる自信がない。きっと返してあげられない。ごめん、ごめんね。涙が落ちる。泣いたってどうしようもないのに。どうしてダメなんだろう、こんなにも大好きなのに。
「幸村くんとは?」
顔を上げた。そのせいでぱたぱたとまた、涙が落ちていく。
その様子をブン太は目で追ってから、突然、私の両頬を両手を、つねった。しかもぐにゅぐにゅ上下左右好き勝手に扱う。
痛い!と抗議する前には解放されていて、じんじんと微妙に熱が灯っているだけで。
「答え出てんじゃん?…別にフタ子が気を負う必要ねえんだからよ!」
彼のきらきらした笑顔に、何かが綻びていくような気がした。