レギュラーのみんなと今までのように仲良く一緒にいたい。だけど今はもむしろ、追い詰められるような気がして。こわい。会いたくない。自己矛盾。
私は今、誰を頼ればいいのかわからない。
お昼休み終了が近付いていた。とりあえず教室に帰ろう。教室ならテニス部とは関わりのない友達もいるし、授業中は無心でいられる、と、とぼとぼ階段を降りていた。
そして、あと五段というところで。
「きゃっ」
…元々ドジなところがあるんだから、普通に歩いてもちゃんと段差に注意して歩かなきゃいけないのに。踏み外した。そして、落ちる。本当にいろいろあって、ついてない日だなあ。ぎゅっと強く目を瞑る。
「危ねえ!!」
その時、突然。
私の身体は包まれた。一回りも二回りも大きくて暖かいものに。そのおかげで、床からの直接の衝撃はなく、代わりに呻いたのは、
「……っ痛ぇ」
「ご、ごめんね!私がドジっちゃったばっかりに!怪我とかしてない?大丈夫?」
ジャッカルだった。大切な身体なのに私を庇ってくれた。本来なら守らなければならない選手をマネージャーの私が怪我させるなんてこと、申し訳ないやら情けないやら。
「い、いや!お、俺も、いくら事故とはいえ、密着しちまって、えっと……ごめん」
彼の顔の赤さと焦りに、ようやく自分と彼との距離に気付く。それに。
そういえば助けてもらうのに抱き締められたんだ。分厚い胸板、大きい手。人特有の温もり。うわわわ、言葉にすると何だか途端に恥ずかしくなってきた。顔に熱が集まるのがわかる。
「た、助けてくれて、本当にありがとうね!じゃあ、私、教室戻るっ」
「おっと!そうだフタ子、待ってくれ」
ジャッカルの前から撤退することは敵わなかった。彼の顔もまだ少し赤いままだったけれど、少し息を整えて、そして、ブン太からの伝言だ、と神妙な表情へと変えた。一体何なのだろう?
『ミーティング前に二人だけで話がしたい。屋上に来てくれ』
呼び出し。屋上。二人だけの話。いつかの光景が思い出される言葉。そんな…まさか、また、なんてことは、あるはずがない……。
「ジャッカルはその話の内容を……知ってるの?」
「ああ」
しかし、ジャッカルの表情ですべて悟った。精市の時と同じことが起こるのだ。ブン太が、そんな、ブン太まで、私を追い詰めていく。
泣きたくなった。息を止めることで瞳が潤むのを堪えるので必死だった。動けなかった。苦しい。みんなと今まで通り一緒にいられる道がますます狭まっていく。逃げ道がなくなる。
「…心配するな」
降って来た言葉に顔を上げる。目の前の彼は優しく笑っていた。フタ子はいつもみたいに元気な方が良いぞと、何故かガッツポーズまで決めて。そんな、気合入れて解決できるような問題じゃないのに、わかってて私を元気づけようと振舞うジャッカル。
「大丈夫だ。なあ、フタ子。これからも気にせず、ブン太や他の野郎も誘って、いつもみたくコンビニで寄り道すればいい話だろ?」
きっと何にも変わんねえよ。
「どうせ、俺がブン太や赤也にお菓子やら奢らされて、フタ子も味見係で何か買わされそうになったりして、けど結局俺が……」
「……ふふ、確かにそうだね」
いつも通り、今まで通りの情景が途端に目の前に広がって、少しだけ先に希望が持てたような気がした。