黒歴史 | ナノ

 比呂士と別れた直後、今度は蓮二に出会した。私に元気がないことくらい蓮二にだってお見通しだろうけど、今は何をどう話せばいいのかわからなくて、曖昧に笑って通りすぎようとした。けれど。

「通りかかるだろうと予想していた」

 私と話すために待っていてくれたことを知る。

「…蓮二は知ってるんだよね?」
「ああ」

 精市が私に告白したこと。私がどうして悩んでいるかも。きっと知っている。
 蓮二の顔をじっと見る。その表情から何を考えているのかはわからない。

「じゃあ、どうすればいいと思う?」
「どうもこうも、」

 蓮二は手元のノートに目を落とす。何ページかパラパラと捲り、ある場所で手を止めた。何が書かれているんだろう。緊張感ゆえに沈黙が流れる。
 ふう、と息を吐いて、蓮二は言った。

「ひとつ言えるのは、二人が付き合うと今までの仲間達と居る事の出来る時間は半減、否半減以上の減少になる。また、言わずもがなフタ子を好いていた奴らがよそよそしくなったりも、な」
「確率は?」
「89%」

 …100%と言っても過言ではないはず、と心の中で呟いた。


『フタ子、俺はね。誰にでも優しくて、でもひとりひとりをちゃんと見ている、そんなフタ子に惹かれた。だからマネージャーに推したし、こうやって想いを伝えようとも思った』
『好きだ。フタ子を独り占めにしたい。みんなの前で君が笑っているのがつらい。つらいんだ』

 精市を初めて怖いと思った。試合中、機嫌が悪い時、彼の醸し出すオーラは、みんなを黙らせたり畏怖させる程の恐ろしさがある。だけど、本当は心は優しくてあたたかい人だって知ってるから、私は全然平気だった。精市は怖くなんてない。その自信が一瞬で崩れた。

「そっか」

 精市は優しい。怖くても、本当は優しい人。知ってる。だから精市が好き。そして、友人を大切にする蓮二も、同じくらい大好き。なのに。

「精市は、それを壊してでもフタ子だけが欲しいのだろう。好きだから」
「…………」
「好きにも色々あるんだ」


 じゃあ、私がみんなのことが好きな気持ちはどうすればいいのだろう。今までを壊してまで、私は誰かを好きにならなければいけないの?


「俺は、いつでもどんな時もフタ子の味方になろう」
「……ありがと」

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