お弁当を食べ終わると、いつもはそのまま屋上で談笑するのが常なのに、雅治がいないだけで全部違った。私が未だ精市を避けてしまうのもある。こんなときに辛いことも忘れられるような何か明るい話題でもあればいいのに。空気が重い、息苦しい。
「私、次の授業の用意もしたいから、先に教室に戻るね」
なるべく明るい笑顔で、逃げた。いつもの楽しいこの場所が壊れるところなんて見たくない。
「フタ子さん!!」
そんな時、後ろから私を呼び止めたのは比呂士だった。私を心配して後を追ってきてくれたのだ。やっぱり誰かに迷惑かけちゃうね。ダメだなあ。
「いつもの元気がないようですね。フタ子さんらしくない…悩み事ですか?」
悩み事。そう、悩み事ではある。だけど、こんなことを比呂士に言ったって、彼を困らせることになるだろう。すべては私が優柔不断で、我が儘で、弱いせいなんだもの。私が全部悪いのに、今はそんな簡単に頼ってしまってはいけないような気がする。
「話せる範囲だけでも構いません。これは私の我が儘なんです。どうか頼ってくれませんか」
比呂士の、その優しい我が儘に、目眩がした。
ほんの少し、頼ってもいいかなあ。
「…いつも通りみんなで仲良くしたいのに、私は、どうすればいいのかな」
私はどう振舞えばいいのだろう。精市の前で。雅治の前で。どうしたら、みんなで仲良く一緒に、誰も辛い想いをしないようにいられるのだろう。
比呂士は押し黙って考えたあと、何かに辿り着いたようにじっと私を見据えた。
「誰にでも優しく出来るところが、あなたの良いところです」
彼の瞳は真剣そのもの。そして、私の手を両手で包み込んだ。あたたかい。なのに、比呂士の微笑は少しだけ悲しそうだった。
「ただ、みんながみんな同じように優しくされるだけでは、満足出来なくなったのかもしれませんね」
やっぱり、比呂士もそう言うんだね。今までのままじゃ駄目だってことなの?
「かくいう私も、このようにあなたに抜け駆けのように優しく出来ることも、優しくされることも、大変嬉しく思ってしまう」
特別優しくしたい人。
特別優しくされたい人。
関係を崩してまで、そんな人を見付けなければならない、と強迫されているような。そんな気持ちになる。