黒歴史 | ナノ

 少しだけ気分が沈む。元気だけが私の取り柄なのに、こんなの、だめだなあ。みんな人の変化には目敏いから、見つかると心配をかけちゃうよね。…お昼までには、いつもの私に戻そう。ずっと、いつまでも、みんなと仲良くしたいもん。みんなと……。

 精市は何を思って私に「好きだ」と言ったのかな。何もない私を、この立海テニス部に引き入れてくれたことはすごく感謝しているし、その上好きになってくれたことも…嬉しい。すごく嬉しい。でも。
 私を好いてくれている事実への気恥ずかしさ。今までずっと好きでいてくれたのに、何も気づいてあげられなかった申し訳なさ。「ずっと辛かった」と言った彼の声の切なさ。思い返すと心苦しい。つらいよ。そして。
 だけど、何も返してあげられない。何と返して良いのかわからない。精市のことは好きだ。そしてみんなのことも好き。誰が一番、じゃなくって。みんなとずっと一緒にいたい、ずっと、仲良くしていたい。

「あ、雅治っ!!」

 気分転換に教室の外に出ると、廊下で雅治が一人ぽつんと突っ立っていた。その背中に動きはない。心なしか元気も、ない?

「もう雅治!何やってんのよー」

 二度目の声掛けにようやく、弾かれたように雅治は振り返った。

「っフタ子、か、」

 その泣きそうな顔に言葉を失った。雅治のそんな表情は今まで一度も見たことがない。こっちまで苦しくなるような、そんな切なくて、辛い………。

「……ま、さはる?」


 そのまま彼は逃げるようにして去って行ってしまった。いつもはみんなで集まるお昼ご飯の時間も、彼は食欲がないと言って顔を出さなかった。せっかく今日のお弁当はからあげで、我ながら美味しそうな出来栄えなのに、こんなんじゃ、こんなのって、このままじゃ。

「フタ子のからあげうまそー」


 みんなでいつまでも一緒にいられないのかなあ?

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