「何で雅治もいるの?」
「名前と一緒に帰りたいんじゃもーん」
「私は名前と二人きりで帰りたいのに…」
帰路。変わらず三人で並んで帰ることになった。いつもより少しだけフタ子の元気がないのはやはり今日の作戦がいろいろと効いたということだろうか。いやしかし、結果はこの先までわからない。決定打はなかったが、今日の努力を無駄にはしたくない。なんとかならないものか…。
ちなみに、ここでブン太は一緒ではない。いつも通りジャッカルと帰るらしい。
「後は二人に任せる。やっぱ実際目の前にするには、もうちょい時間が欲しいっつーか」
半日付き合ってはくれたが、やはり、例の最終局面を目の当たりにする心の準備は整っていなかったようだ。それでも、ここまで付いて来てくれたことには多大に感謝したい。
「フタ子」
そしてとうとうラスボスが現れた。途端に真っ青になったフタ子を見たところ、未だ応えは出ていない。立ち止まった状態で沈黙が続く。が、やはりフタ子は踏み出せない。
「俺を見ろ」
普通ならその場から去らねばならないが、今回はフタ子に対面する。幸村は既に私たちがアウトオブ眼中なので気にしない。こうなったら私が諭すしかない。
「フタ子、今日はいろいろなことがあったでしょう。いろいろなことを考えたでしょう」
朝から私に責められ、真田には優しくしたいと思い、仁王の態度はいつもと違い、ブン太は知らぬところで仁王と険悪。柳生は何をしたのか知らない。けど、ジャッカルには護られ、赤也には告白され(うまくいったのだろうか)、柳は…特になし。そして、幸村を一日無視して。
「フタ子は今日何人の人を傷付けた?何人の人を傷付けたくないと思った?……ねえ、フタ子はまだ幸村を傷付け続けるの?」
俯いていた顔を少しだけ上げた。なんて悲壮感漂う。せっかくの可愛い顔が台無しだ。いや、悲しそうな表情も可愛いけれど、フタ子は明るい笑顔が一番良い。
「これが最善だと思ってるの?」
◇ フタ子を幸村と二人残し、仁王の腕を引いてその場を離れた。仁王はフタ子とのやり取りの間中ずっとだんまりだった。成り行きとはいえ、仁王は本当によく私を支えてくれた。彼に向き直り、口を開く。
「…何度か言ってきたけど」
時間がこれだけ経っているのに繰り返し点特有の"ぐにゃり"感がないということは、フタ子なりに答を出せたのだろう。これなら、明日がちゃんと来るかもしれない。
「ごめんね。あと、協力してくれて有難う」
とはいえ課題はまだまだ山積みだ。明日が普通に来たならば、今度は私は黒歴史世界へのトリップから脱け出す方法を考えねばならない。今となっては酷い苦痛を与えるような場所ではなくなってはいるものの、やはり私は大人であり、他は中学生。私は明日からまた一人で、元の世界に戻る方法を見付けなければ…。
「…………名前、ひとつ勘違いしとるぜよ」
私よりうんと背の高い目の前の男が突然、真剣な面持ちに変わり、ようやく喉を震わせた。仁王の真面目な表情と声って割と貴重。よくよく見ると、やっぱり整った顔をしている。あと、つやつやで綺麗な肌。ほんと、キレイ。
「お前さんに協力したんは別に現状を変えるためじゃのうて」
仁王との距離が、仁王の顔と私の顔との距離が、ゆっくり、しかし確実に縮まっていく。影が落ちる程。影がひとつになりそうな程。目線がそらせない程。相手の香りが鼻に届く……あれ、これ、もしかして…………?
「名前、が、」
ヤバくね?