黒歴史 | ナノ

「じゃ、そろそろ場所を移ろう」
「え?なになに?」

 意味のわかっていないブン太への説明はとりあえず置いておいて、例の階段へと移動する。

「さて、ここで一人のおなごの命を救ってしんぜよう」

 仁王のいかにも中学生らしい、くだらない言葉に苦笑する。楽しそうで何よりですが、まあそういうことです。


「名前ー!ちょっと待ってよー!!」

 フタ子が上階より駆けてくる。ドジなんだから少しは落ち着けばいいのに。確信犯?なんて。
 どうあろうとフタ子がここで足を踏み外すことには違いない。

「フタ子!」
「危ねえ!!」

 何も知らないブン太が飛び出そうとしたが、仁王に首根っこを掴まれたために前に進むことは叶わなかった。そりゃそうだ。ジャッカルが来るのだから、そこに飛び出すことはむしろ危険。
 それにしても。ジャッカルがしっかりフタ子を抱き止めて、自分が下敷きに、犠牲になる様は、何度見ても感慨深いものがある。少女漫画のヒーローはこうでなくちゃ…私の黒歴史ではあるんだけども。

「……っ痛ぇ」
「二人とも大丈夫?」

 倒れた二人に手を貸して起き上がらせる。

「ご、ごめんね!私がドジっちゃったばっかりに!怪我とかしてない?大丈夫だった?」
「い、いや!お、俺も、いくら事故とはいえ、密着しちまって、えっと……ごめん」

 お互い思い出したようで、顔がみるみる赤く染まり、初々しい。さてさて、お姉さんはそんな二人の仲を取り持ってあげようかな。

「ジャッカル。こんなドジな妹だから、これからもなるべく守ってくれる?」
「ああ、もちろん……そのつもりだ」

 彼は君のナイトだよ作戦ー!

 フタ子はジャッカルの、その少し遠慮がちで、しかししっかりと自信のこもった声に、キュンとときめいているご様子である。…これは女の子なら誰でもときめいちゃうわ。致し方ない。

「だけどね、フタ子はフタ子でいつまでも守られるわけにはいかないんだよ?ちゃんと、しなくちゃいけないよ」
「う……うん」

 ちゃんと、何をするのかは言及しなかったが、フタ子なら理解したことだろう。
 とはいえ、ときめきドキドキヒーローショーの余韻に未だ二人は浸ったまま。ジャッカルを好きになって、幸村を振る構図でも良いから少しでも先に進んでてくれればいいのにね。

 なんて考えつつ、私は物陰で待機しているお仲間のところへと戻ることにした。



「ジャッカルの野郎、毎回こんな羨ましいことしてんの?」
「そうだよー」

 先の仁王の言葉はこういうことかと、丸井はちょっと悔しそうに笑った。

「先がわかってるってのも面白いもんだなあ。占い師だか超能力者だかみてえ」

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