「仁王君!丸井君!」
丸井は怒っていなかった。が、後から来た彼は相当ご立腹だ。
「いったいどうしたというのです?彼女の目の前で喧嘩など…!」
柳生は知らねえの?と丸井がこちらに目線を寄越したのに、軽く首を振る。仁王の熱き友情により、柳生は殴っていない。
「貴方たちに昨日何があったか存じ上げませんが、私情をあの場に持ち込まないで下さい!」
さてさて、柳生がどうしてこれ程まで激おこなのかと言えば、もちろんフタ子さん絡み。最後に見たあの絶望感たっぷりの表情といい、柳生の大切なフタ子さんを参らせたのだ。
しかし、仁王もブン太も柳生の態度に焦ることもなく、むしろ落ち着いた様子で。
「フタ子の前で仲良しごっこを続けるんはもう止めじゃ」
その低い声に、柳生はハッとなる。続くブン太。
「普通にしてりゃいいじゃんよ。だから、フタ子だって俺達の仲を壊したくないばっかりに、俺達のごっこ遊びから抜けられなくなってんだよい」
柳生は二の句を告げない。最後に私が畳み掛ける。
「柳生だってフタ子が好きでしょ。それなら、心配するだけじゃなく、もっと優しくしてフタ子を惚れさせるくらいのことをしなよ」
仲間の仲を、輪を乱さないように常に配慮してきた柳生たち。だけど、きっとそのせいでみんな多少なりとも自分の感情を圧して我慢してきたのだ。一番早く爆発したのが幸村。足枷となっているのがフタ子。柳生だって、きっと。
彼は少し悩ましい表情を見せた後、すぐに踵を返して駆けて行った。風紀委員よ、廊下は走るでない……。
「…かっこよくまとめたけど、あんたら充分普通とは逸脱したアタック咬ましてたじゃない」
「あ、バレた?」
「やぎゅにはこう言うんがええんじゃ」
そんな気はしたよ!
各々加減は違う。この二人は特に溜めてしまうタイプでもないのだろう。あと赤也も何も考えてないはず。
「これで柳生がフタ子に多少なりともはたらきかけてくれればいいけど」
そこは彼次第だから、どうなるかはわからない。仁王は怠そうに大きなため息を吐いた。
「ほんに、やぎゅは小言うるそうてたまらん…」
こいつが柳生をこちら側に入れなかったのは、別に熱い友情とは関係なく、ただ単に柳生の小言が面倒だっただけかもしれない。否、夢のないことは考えないでおこう。