「昨日、とはどういうことだろうか」
後ろからヌッと現れたるは柳蓮二。丁度、赤也が「覚えてろよ!」なんて負け犬台詞を言い残し去って行ったところだった。いや、アンタが忘れてただけじゃん。私は悪者じゃないし。
「いつの間にあの赤也を手懐けたんだ。仁王ともえらく仲が良いようだし…」
彼はどこをどう見て赤也を手懐けたと思ったのだろう。まあ腹を殴っておいてキレ芸に定評のある赤也さんにキレられなかったのは大したものだと思うが、フタ子のようにデレデレな忠犬に育てるのは少し無理な話。なつかれている気もしない。
まあ、赤也の問題は置いておいて、確かにいきなりブン太に(私の意図じゃなくても)パイ投げしたり真田が頬を染めていたりなど、なかなかの奇行が連発しているのも確かである。
仁王とお互いに顔を見合わせる。これは、昨日より手応えはあると見た。
「参謀、苗字と仲うなりたいか?」
「何だ?興味深いな」
「苗字に一遍殴られてみんしゃい」
「……何か裏がありそうだ。わかった。苗字、俺を殴ってくれ」
そう言って私の正面に進み出て、目を瞑る柳。いや目は元から開いているようには見えなかったが、とりあえず無防備な状態なのである。え、殴るの?柳を?なんだかいざその時になると変に緊張してしまう。
「い、いくよ?いいの?」
「ああ」
右手に力をこめて、出来るだけ痛くないように、だけど思い出してもらうために痛いように。そう、この困りきった現状を、柳はその素晴らしい頭脳を発揮し、解決に導いてくれるに違いないのだ!柳は欲しい。どうしても柳が欲しい!!
「…………参謀」
いよいよ決心した時だ。仁王が私に近付いて来た。何だ?と、私も柳も仁王に注目する。
ひらり
事も無げに、彼は柳に向かって私のスカートを持ち上げた。それはもう、全開である。いくら己の拳と柳の腹に集中していたからといって、スカートを捲られるなんて一生の不覚。
…………じゃなくて!!
「あ、あ、アンタ何してくれてんのーーーっ!!」
あまりの羞恥にもう何がなんだかわからない。未だ握ったままであった右拳を勢いよく振りかざすが、ヒョイと軽く避けられてしまう。腹立たしい。悔しい。泣きたい!!
「ん?別に殴らんでも良かったと思ってのう」
「だからってだからってだからって……!!!」
「大丈夫じゃ。俺は見とらんから」
有り得ない有り得ない有り得ない!どうして事故の真田だけでなく柳にまで下着を見せなければならないのかそれが例え未来のためでも殴る準備は出来てたのだからこの馬鹿野郎!!
一方、柳は「よくわからないが殴られなくてもいいみたいだな」と静かに去って行ってしまった。何でそんなに冷静なんだよ逆に悲しいじゃないか。
ちょっと良い奴なんじゃないかと考えが変わってきていたのに、何だこの仕打ちは。酷すぎやしませんか。
とはいえ、この身体は現実の身体ではないのだし、中学生だし、これで事態が進展するのならば、今回のことは心の奥底に封印してしまおう。そうだ、そうしよう。なかったことにするのが一番です。大人の対応大人の対応…うう。