苗字名前。先日まで父と一緒にアメリカで暮らしていた所謂帰国子女。母と双子の妹とは離れていたけれど、ようやく父の向こうでの仕事も終え、1年ぶりにまた共に暮らせることになったのだ。
んな阿呆な。
どこの誰がこんなチンケなネタを考え出したのか。言っておくと私じゃない。黒歴史時代の私はそこまでのことを考えていない。せいぜい妄想していたのは、ごく普通の幸せな家庭に生まれた女の子が、平々凡々に学校生活を送るはずが、テニス部に目を付けられて、なんやかやあって、マネージャーになって、その可愛さと人間性から周りを夢中にさせた……隣を歩く女の子のことですけど。見知らぬ道を歩きながら、そんな歴史を教えてくれたフタ子。
ああそうですか。やっぱり立海ですか。黒歴史か。そして私はこの門をくぐる…。
「そこ!スカートが短い」
突然キーンと耳鳴りするほどうるさい怒鳴り声が聞こえた。
「わ、見つかっちゃったよ」
「苗字か…」
……真田か。やっぱりいるのか。やかましいわ。朝からそれはないわ。やかましいわ。
風紀委員真田が言っているのは転入早々服装を乱すわけもない私、ではなく、もちろんスカートを折り込んで短くしたフタ子さん。
「お前はいつもいつも、そうふしだらな格好を。隣にいる苗字を見習わんか!スカートの丈はもちろんのこと、第一ボタンまで……って、苗字が二人ィィィ!?!?」
だから、やかましいっての。双子の姉と来るから朝練来れないって言ってたじゃない、というフタ子の言葉に、真田は確かにそうだったと落ち着きを取り戻した。
ブワ。そんなときに突風が吹き抜けた。フタ子が整えてくれた髪が荒れる。誰もが動きを止める中、隣のフタ子はその隙に、私の腕を引いて駆け出した。
「待たんか!!」
「弦一郎、委員活動もがんばってね!!」
「!!」
真田がこんなに顔を真っ赤にしてデレデレだなんて。悪夢だ。悪夢に違いない。黒歴史じゃないか、こんなの、記憶の片隅にある黒歴史にそっくりじゃないか。
こんなに走っても息切れしない体力に、逆に悲しくなった。