黒歴史 | ナノ

「何で雅治もいるの?」
「フタ子と一緒に帰りたいんじゃもーん」
「私は名前と二人きりで帰りたいのに!」

 そういうわけで、三人並ぶ帰路。結局何もわからないまま一日を終える帰路。今のところ、一応、隣の仁王が私の希望。何も見つからなかったけど、明日になってみないとわからないこともあるんじゃないかなあ。


「フタ子」

 うげ。すっかり忘れていたフタ子を呼び止める声の主。威圧的で、しかし静かな幸村の声。

「おっと、私たち先に行ってるからねー」
「あっ名前っ!待っ…」
「今日一日ずっと避けてただろう。…逃げるなよ」

 置いて行くフタ子の表情は見ないようにして、仁王の腕を取り先の道にある角を曲がった。さすがに仁王がいては不味いだろう。陰から二人、幸村とフタ子の様子を覗き見る。

「俺を見ろ」

 いつ聞いても恐ろしく男前で、恐ろしく恐ろしい台詞ですこと。一方のフタ子は辛そうだ。

 と、そういえば。

「…ごめんね、あんたもフタ子のこと好きなのに」
「よう知っとるの」
「それくらいわかるよ」

 友人が自分の好きな女の子に想いを告げたであろうこと。自分の好きな女の子がそれに悩まされているであろうこと。見ていていい気分のすることではない。むしろ仁王も辛いことだろう。この世界では誰もかもフタ子のことが好きなのだから。
 仁王はそれきり黙り込んだ。やっぱりちょっと傷ついたのかな。私も何も言えなくて。

 そして、耐え切れなくなったフタ子はこちらに向かって走ってきた。目に涙をいっぱい溜めて。そして私に縋り付く。同じように。

「私、どうすればいいのか、わかんないよ…っ」

 どうすれば、って。

 幸村が好きなら好きで、例えばこの仁王が好きなら仁王で。そして、今じゃないと思えばきっぱりと言えば良いんじゃないの?彼女は一体何を思っているのだろう。


「私、私が好きなのは……」


 ぐにゃりと世界が歪む。
 意識が途切れる直前、思わず隣にいる仁王の顔を見たが、彼が何を思っているのかはさっぱりわからなかった。

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