黒歴史 | ナノ

 仁王に乱暴に腕を引かれ、息苦しい屋上を去る。そして今は二人きり。…別に嬉しくもなんともない状況。仁王は、ようやく二人きりじゃ、なんてニヤニヤ呟いているが、私は何も気にしてやらないから。
 そんなことよりも、今の私たちにはしっかり話し合わねばならないことがある。

「…というわけで、私にも何が何だかわからない」

 一応、私がこの黒歴史ワールドにトリップしていることはすっ飛ばしたけれど、同じ日が繰り返されていることについては説明をした。こんなトンデモビックリな現実を、目の前の男は案外あっさり受け入れたようだ。どうしてこうも最近の中学生はませているんだろうね。私は一応大人だから。びっくりしていないわけでもないから。むしろ、このペテン男はこの展開を楽しんでいるようにも思える。

「ほう。じゃあ、実は三度目ましてというわけか」
「そうそう」
「おまん、よう二度三度しか会うたことない奴を殴れたのう」
「君、よく初対面の人に抱きつけるよね」

 あれはフタ子だと思っとったんじゃもーん。今日は私だってわかってたのに抱きつきにかかったでしょう。ピヨ。そんなふうに適当にじゃれあっていた時だった。

「仁王君、苗字さん」

 あ。完全に忘れ去っていたが、この時間のこの場所は、柳生が現れるんだっけ。一度目は、腹立つことを言われて、それを防ぐために二度目は神経使って疲れて、そして完全に忘れていた三度目。とはいえ、始め彼が言った通り、フタ子に心配かけないようにレギュラーと仲良くすることは一応達成している。主に仁王限定で。仲良く?まあ、とりあえずうまく人間関係を構築しつつある…はずだけど。

「どうかした?」

 柳生は少し気まずそうに、眼鏡をクイと持ち上げた。隣にいる仁王も何も言わない。こいつは、柳生が何を言おうとしているのかわかっているのか。

「苗字さん、差出がましくはありますが、…もう少し、仁王君以外の、他のメンバーとも仲良くしたらいかかですか?」
「は?何で?」
「えっと…」

 再び同じことを言われるとは思ってもいなかった。仁王以外とも仲良くしろ?彼は私に何を求めているのか。私は聖人でもフタ子でもないし、人の得手不得手だってある。今回は黒歴史ということでレギュラーを避けたいのだけれど。ああ、もう。わけがわからない。
 しかし柳生は理由を私に言うことなく、むしろ直接言うことを回避するように仁王に話を振った。

「仁王君は仁王君で、彼女に構いすぎではありませんか。いつものあなたらしくない」
「いつもの俺って何じゃ」
「いつものあなたは、フタ子さんを……。ええ、突然離れてしまえば、彼女もきっと寂しく思っているはずです」


 理解した。
 結局、またフタ子フタ子。そういうわけですね。


「…フタ子は柳生に任せるぜよ」
「仁王君!」
「俺は名前、こいつに決めた」

 何、その阿呆くさいキザな台詞。とは口に出して言わないが、柳生からうまく逃れるには、肩を抱くことも許してやらんでもない。…許してばっかりだな、私。



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