あの子は自由人 | ナノ

大丈夫

 もうクッタクタというか、身体が鉛のようというか、もうなんというか疲れすぎてヤバい。
 明日からの練習も今日みたいにえげつないのか、いや、今日以上かもしれない。なんて億劫になる反面、どこか楽しみにしてる自分が怖い。どこまでいってもテニスバカってか。

 そして、もうひとつ頭がバカになっていることがある。幸せな飯の時間も風呂の時間も意識が飛びかけて、ベッドのことしか考えられなかったというのに、いざ寝るというときになって携帯の画面とにらめっこする自分がいる。メール画面。バカだろい。…疲れて頭が働かないってのもあるけど、こんなときに限って何て送ればいいのかさっぱり思い付かない。困った。
 あ、もういっそのこと。
 画面を切り替えて、思うままに押した。


「もっ、もしもーし…」
『丸井は電話かー』

 案外すぐに出た。出ないことをまったく想定していなかったけど、普段携帯を放置している苗字がすぐに着信に気付いたのも驚きだ。けど、どうやら丁度メールの返信作業中だったらしい。幸村くんと、柳生と、赤也からの…。みんなやること一緒ってか。

『面白いことになってんね』
「だろい?」
『どうせ、桑原いなくてちょっと寂しいんでしょう』
「んなわけない…こともねーなあ、たぶん」
『の割に楽しそう』

 向こうでケラケラ笑ってるのが聞こえる。ほんと、当事者じゃない奴にとったら、こんなトンデモな合宿はおかしくて仕方ないに違いない。何も知らないことをいいことに、いろんな文句やらを思い付くままうだうだ垂れて垂れて垂れまくってやった。…気付くと相槌が聞こえなくなっている。

「おーい、苗字?」
『終わった?』
「………聞いてた?」
『どうでしょうね』

 こんなことを言って、どうせ全部聞いてるんだろうな。なんだかんだ言って優しいから。そういうところが腹立つ。もう腹立って……うう、眠い。何も考えられない。

『もう限界だろうし、切るよ』
「んー、おー…」

 そうだ、早く寝るつもりだったんだ。眠い。同室の奴らももう寝てる頃だろうなあ。

『じゃあ、おやすみ。明日からもがんばりなよ』
「おー」





「今夜はカノジョに電話しねーの?」

 ニヤニヤと同室の奴にからかわれる。電話の最中はちゃんと部屋出て気を使ってやったのに、面倒くさいことこの上ない。

「彼女じゃねーよい」

 そう、彼女なんかじゃない。向こうにとってはただの友達。

「もう、電話もしねえ」

 俺は昨日ので充分満足した。充分がんばれる。なんとかできるし、なんとかなる気がする。

 携帯を取り出す。画面を操作し通話ボタンを押す。もちろん電話をかけるのは、苗字ではない。もう電話はしない。

 

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