「マネージャーは真田殴っとかんでええんか?」
突然、仁王は何を言い出すんだか。どうやら関東大会決勝で一年に敗けたとき、ひとりひとりに制裁として打たせたときのことを言っているらしい。…一月以上も前のことだ。しかも、全国大会で自分は逃げたことなど棚上げである。
苗字は自分の手のひらを一度見た後、俺の顔をじっと凝視した。特に左頬。ほ、本当にやる気なのか…来るのか……?
「わ、わかった。おまえも部に貢献した一員、甘んじて受けようではないか」
目を閉じ、来る衝撃に備えて身体に力を入れる。…が、聴こえてきたのは大きな溜め息。
「私、暴力とか嫌いだから」
どの口が言うか、とはさすがに突っ込めやしなかったが、安堵したのも事実。別に打たれるのが恐いとかでは断じてないが、その、病院で彼女が怒ったときを思い出してだな…。あの時の気迫は俺に少しの恐怖心を植え付けた。それは認めよう。
「真田はむしろ褒めてあげるべきだと思わない?」
ふと目の前の苗字は頬を緩めた。可愛らしい方ではない。悪い方。ニヤリ、という擬音が正しい。
それからは、もう、ただの嫌がらせでしかなかった。
「全国で手塚に勝ったもんねー弦一郎くんよく頑張ったねー」
「えー俺も雅治くんえらいえらいしてー」
「不二に敗けたろうが」
「じゃ、俺も。真田えらーい」
苗字の前で叫ぶと、ものすごい睨みで「うるさい」と一喝されるから、俺は、この状況を巧く逃れる方法を知らない…。
まあ、棒読みだしふざけてはいるが、褒められて悪い気がしないことも…まあ。うむ。
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