「マネージャー」
『はあ。私はもう引退したんだから、そろそろマネージャーは止めてくれないかな』
「じゃあ、何て呼ぼうか」
『………名前、でいい』
「雅治くん」
『…まさ、はるくん』
「何じゃ、名前」
「ちょっと、気持ち悪いんで止めていただけませんかね」
喋り方似せたところで、いくらなんでも女声は気持ち悪い。とか言いつつ、まったく関心がなさそうな張本人。
「内容については?」
「何その茶番」
酷い。相変わらずつれない。俺からのメッセージにはまったく触れてくれないらしい。いや、どうせ気付いとるけど、わざと無視してるに違いない。
「そろそろ"マネージャー"呼びも飽きたじゃろうて」
「それがあだ名だと甘んじて受け入れてるので、心配無用」
相変わらず可愛くない。いや、そもそも可愛いとかそんなのは彼女に当てはめるべき言葉ではないことはわかってはいるが…。
「俺は飽いた」
「あっそ」
赤也は完全に落ちていると見た。柳生とジャッカルは仲の良い女友達で収まっているし、真田もそんな感じ。柳と幸村は…まあ置いておこう。問題のブンちゃんは、雰囲気は確実に変わったが、それは惚れた腫れたの類いのものかは今のところはかりかねている。
そして、一番わかっていないのがこの俺自身。
苗字の、どこか他人を踏み込ませないような壁が、夏までに比べて薄くなったのは確かである。それを俺は望んでいたし、その先が楽しみで仕方なかった。だけど、いざそうなってみると、よくわからなくなった。彼女のことを好いているが、それはそういう"好き"になるのか、ならないのか。
「名前」
ちょっとイラついたのがわかる。が、あくまで彼女は無視を通した。
「名前名前名前ー」
「いい加減にせ」
軽く殴られる。まあ、全然痛くないのだけど。むしろ軽いスキンシップだろうと、以前の絶対に詰めさせない距離との違いに嬉しくなる。
「雅治って呼んでー」
「いーやーだー」
好きになりたい、本気になりたいって気半分、このまま微妙な距離感を保ちたい気半分。結局、結論なんて出やしない。
ただ、誰かに獲られるくらいなら、俺のものにしよう。そんな感じかのう、今んところ。
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