あの子は自由人 | ナノ

少女は悟る

「よお、新マネ」
「頑張ってるみたいだな」

 ブン太とジャッカルだ。ううん、こっちでは丸井先輩とジャッカル先輩。ひとつ年上で、形式上引退された先輩。形式上というのは、高校に入学するまでのこの微妙な時期は引退したとはいえ中学の部活に出ている、といったわけで。だから一年遅くなろうがキャラクターと関わることは出来た。

「まだまだ俺の苗字には遠く及ばんがのう」
「俺の、なんて彼女が聞いたら怒られますよ」

 仁王に冗談でも"俺の"なんて一度で良いから言われてみたかったな、なんて思ってみたり。

 三年の先輩方の会話はほとんどが苗字先輩に関するものである。私のことを名前で呼ばずに"新マネ"と呼ぶのも、恐らく苗字先輩を無意識に意識してるからだろう。羨ましくないわけがない。羨ましい、超羨ましい!
 だけど、立海のテニス部のマネージャーになってわかった。…ハード過ぎる。ほとんど毎日練習だし、毎週のように高校、大学との合同練習で気を使うし、前いた学校とは比べ物にならない。全国制覇するぐらいの学校だと覚悟はしていたけど、加えて女子からの陰険な嫌がらせ。並大抵の精神力じゃ耐えられないはず!それを、私のような下心もなしに完璧に仕事をしてたのだから、もう、私、敵わないって悟ったんです。

「苗字先輩ってみなさんにとって、どんなマネージャーだったんですか?」
「うわ何その答えにくい質問」

 あからさまに嫌そうな顔をしたり、それでなくとも眉間に皺を寄せたり…。彼らはお互いに顔を見合わせた後、うーんと唸り始めてしまった。そして各々、思い付くままに、苗字先輩の姿を描き始める。一様に、苦い表情で。

「無駄嫌いの合理主義者で」
「血も涙もない冷徹ぶりで」
「面倒くさがりの気分屋で」
「テニスに関心すらなくて」
「悪戯は無駄に凝るしのう」
「赤也と仁王に容赦ないし」
「反対に特別贔屓もするし」
「仕事は完璧なんですがね」

 なんか、いろいろ矛盾してるような、しかもすごい酷い言われようだ。貶してる、わけではないのはわかるんだけど。
 ああ、そういえばと、ブン太が明るい顔に変わった。

「苗字、前に『私はメンタル面では選手をサポートできない』なんて言ってたけどよい」

 周りは初耳だったらしく、驚きつつも「あいつならそう考えながらマネージャー業してたんだろうな」と笑い合う。

「ですが、寧ろ支えでしたね」
「あいつがいなけりゃ、幸村のことだってだらだら引き摺ってたろうし」
「あの仕返しは頭冷えたぜよ」

 この一年、先輩がどれだけのことを彼らにしてきたのかがよく伝わってきた。生前読んだ原作にはなかった描写。だけど、あのかっこよくて素敵な彼らを形作るのに、この世界で彼女は必要な人だったに違いない。

「みなさん、苗字先輩が大好きなんですね」
「そりゃあな!」

 ホント、下心なんてない、綺麗な笑顔で、純粋に羨ましいと思った。私も、こんな、純粋に愛される人になりたい。誰かの世界を形作りたい!そう、思った。

 

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