「先輩は引退したんス!」
「そうだね」
「俺、部長になったんスよ!」
「知ってる」
今日言うって決めてたんだ。絶対言うって。ひとつ深呼吸して息を整えて。ふう………。
「だから!俺を!名前で!呼んで下さいよ!!」
そんで、誉めて讃えて崇めてください、とはもちろん言わないが、予てよりの目標だったのだ。実行してもらわないと困る。俺が困る。
「嫌」
だから何でそう頑なにこの人は拒否すんだよ。もう期は熟したはずだ。マネージャーでもなくなったんだから、別に怖がらせなくたっていいじゃん。
「女子の顔本気で殴る最低野郎は、"おまえ"で充分」
「ランク下がってるし!」
あの時のことは一生言われ続けるんじゃないかって、実は最近すごく後悔してる。いや、あん時俺が殴ってなければ他の誰かが…そんな素振りなかったけど。だけど、すぐ仕返しに蹴り倒されたし、幸村先輩にもこてんぱんにやられたというのに。何なの、この仕打ち。
「これから先はずっと労って尽くしますから!」
「本当?」
「ス」
「嫌ーだよー」
この人は大会が終わってから少し変わった。ツンツンしてた感じがちょっとなくなって、よく笑うようになった。なんか、柔らかくもなった。やっぱりマネ業のプレッシャーはすごかったんだろうな、と思う。
先輩は、ふわりと笑った。
「まだまだ先輩に甘えてばっかりなところはあるけど、ちゃんと実力はあるし、テニスに関しては貪欲だし、実は面倒見もよくてしっかりしてるし。期待してるよ、切原部長」
結局、名前を呼ぶつもりはないらしい。が、褒められた?一部目標は達成した?嬉しい?
……そんなことより何より、俺は何故、こんなにときめいてんだろう。夢か、悪夢か。こんなの絶対有り得ねえ。有り得ないって言ってたのに、何なの、俺、馬鹿なの?くそやろう…。
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