あの子は自由人 | ナノ

囲まれている

 翌日の昼、珍しく苗字が他のクラスの女子大勢に囲まれていた。普段の彼女は一人、または少人数でいることが多いからかなり目立つ。

「苗字さん、テニス部に勧誘されたって本当?」

 聞き耳を立てるまでもなくやたらと大きな声を出す女。俺も仁王も教室にいるというのによくやるよなあ。その度胸をもっと別のところに回せば良いのに。あーあいつら、ただのバカなのか。

「うん」
「で?断ったの?」
「うん」
「部長の?幸村くんの頼みを?」
「うん」

 信じられない!と女どもはきゃいきゃい自分たちで騒ぎ始めた。それを見て、もう用が済んだのかと考えた苗字は、机の横に引っ掻けてあったコンビニの袋から菓子パンを取り出し、気にせず頬張り始めた。あーあれ、今度食おうと思ってた新発売のやつじゃん。うらやましい。

「…………と、ともかく!」

 内輪話に一段落ついた女が高い声を上げる。

「部活に入れてない苗字さんに気遣って誘ってくれたんだから、もうちょっと考えるとかしたらいいんじゃないの?幸村くんも困ってるって言ってたし!」
「それもそうだね」

 その言葉に、「逆に入部されても困る」といったショックを受ける女ども。いや、どっちなんだよ。バカか、本当にバカなのか。隣にいた仁王が呆れてため息をついたのがわかった。

 …というより途中でわかったのが、この事態を仕組んだのがどうやら幸村くんであるということ。どうせあの女子のどれかに、「実は今困っていてね…」といったふうに話したんだろうな。"テニス部に関わらない"という善意、また悪意のある忠告も時既に遅し。一度目を付けられてしまったんだから、諦めるしかないんだよな。

「でも、私テニスのルールも何にも知らないから、どうしようもないかな」

 あなたたちが入ったら幸村くんも助かるんじゃない?と悪意を微塵も感じさせない笑顔で苗字がいうと、悔しそうに、でもこれ以上言っても仕方がないと判断したようで、女子たちは去っていった。
 おかげで、クラスでの苗字の評価がぐっと上がったわけである。あんな爽やかにはねつけられるものなのか、と。

 

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