練習が終わる。肌が痛いほど気温は低いけど、身体の火照りはまだまだ取れん。とはいえ、毎度ご丁寧に練習を見学しにくる女の子らは、早々に帰ってしまったようやけど。
そんな中、まだ観覧席でぼーっと座っとる女の子がおった。しかも他校、立海の制服。別に偵察でも何でも放っとけばええのに、なんとなく興味が湧いたんで、近付いて話しかけることにした。
「自分、立海生?」
「まあ」
返しは適当。
「偵察?」
「偵察ってほど、練習は見てないかなあ」
どういう意味かようわからん。偵察でもあるようなないような、やっぱり立海テニス部の関係者なんか、そうやないんか。いや、練習見に来る以外に何しに来たんや。あれか、ミーハー系な女子か。そうは見えへんけど…とりあえず聞いてみる。
「なら、何しに来たん」
「スイーツ」
「スイーツ?」
スイーツ?
「連れなら絶対スイーツ食べに行くんだと思ってついてきた。氷帝は、そのおまけ」
「おまけか」
じゃあその連れが氷帝に何かしらの用があって、おもろいから自分もついてきたって訳なんか。にしても、おまけかい。そう思っとったら、おまけも結構重要でさ、と真面目な顔つきになる。
「跡部様の『パチーンッ』を一度ちゃんと見て、全国までに耐性つけようと思って」
何の耐性やねん。確かに、あれは、いや、まあ、そうやねんけど。
「…で、見れたん」
「見た見た」
実際生で見ると、笑い半分、残りの半分は正直…引くね。絶対本人に聞かせたらあかん。ナチュラルに酷いことを言いよる女の子はへらっと笑う。
ほんまに偵察やないんやろうか。わざわざ神奈川から出てくるもんか?いや、でも偵察にしてはどうでもよさすぎる気もする。わけわからん。まとまらない考えをまとめようとしていると、彼女にじっと見つめられた。綺麗な顔…。
「君は記憶にないわ。レギュラーだっけ?」
地味に傷ついた。
「いや、待てよ。低い声の関西弁…あーわかるようなわからないような…」
完全に自分の世界に入っとる、一応俺のこと考えてくれとるんやろうけど、まあ、おもろいからええか。
「苗字ー、待たせた!」
向こうから走って来たんは立海の丸井、とジロー。そういえば、なんやジローがやけに練習がんばってたなあと思い出す。なるほど、スイーツの意味もわかった。なら、丸井の彼女か?いや、それはないと変な確信がある。
「じゃーね」
明日にでもジローに詳しく聞かなあかんなあ。
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