あの子は自由人 | ナノ

二度おいしい

「苗字ー!!」

 元気な俺の呼びかけとは裏腹に、苗字は心底うんざりした顔で、おまけに深く溜め息まで吐く始末。

「今度は何?」
「歴史の資料集!!」

 へいへーい、と適当な返事をすると、机の中から分厚い資料集を取り出し、ドスッと凄まじい音をさせて机に表着。

「仁王と違って友達多いんだから、他を頼ればいいのに」

 まあ、そうなんだけど。だけど、なんとなく、教科書とか忘れたとなると、なんとなく、苗字のいるF組まで来てしまう。ジャッカルのI組は遠いし、真田と柳生はちょっと遠慮したいし。…別にテニス部にこだわらなくったっていいんだけど。

「さっきは音楽だった?」
「よく知ってんのな」
「仁王が『リコーダー貸して』って来た」

 ちなみに仁王も常連だが、こいつは借りに来たのかふざけに来たのかわからない。否、あいつ意外に真面目だから、忘れ物とかしてないと思う。苗字に蹴られるために来てるんだろうなあ。…って、どんな理由だよ。

「このクラスではファンに睨まれることもなく静かに過ごせると思ってたのになあ」

 まあ、苗字と柳はクラスでべらべら喋ったり、べたべた一緒にいたりしないだろうし、ファンとしては一安心だろうけど。

 だけど、離れた俺は俺で、結構寂しいって思ってる。毎時間一緒いたってわけじゃないのに、冬までと今は全然違う気がする。仁王とダベるのも、なんか華がない。…苗字が華かどうかはちょっと難しい問題だけど。

 とにかく、まだ、今回のこのクラス替えが無性に悔しい。


「じゃ、昼、返しに来る!」


 借りに来て、返しに来て。二度も苗字と話しに来れるんだから、いいんじゃないかなあ、なんて思ったり。

 

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