あの子は自由人 | ナノ

彼女の一番苦手な人

 風が吹くとまだ少し寒さも感じるけど、でも屋上はもう"春"って感じで、陽射しも暖かい。昼飯には絶好の場所である。
 昼はみんなで集まって食べる流れになっていた。たまに屋上に上がってくる奴らも、俺たちがいるとなると逃げるように去っていく。別に他に人がいようと気にしないんだけど、仲間だけってのも居心地良いもんだ。
 菓子パンの袋を開けた時、屋上の扉が開いた。あれ、苗字だ。

「随分遅かったな」

 柳の口角が上がる。と同時に、苗字の表情も険しくなる。

「部活のことで相談したいことがあるから、昼休み弁当持って屋上に来いって…」
「相談事はないが、屋上で弁当を食べることには変わらない」

 なるほど、柳に騙されたって訳だ。いや、別に騙さなくても普通に昼飯を一緒に食べようって誘うだけで良かったんじゃないだろうか。騙す意味あったの?え。ねえよな?…誰もツッコみはしなかったけど。
 苗字は、仁王が小招きするのと反対側の、俺とジャッカルの間に腰を下ろし、大きく息を吐いた。

「柳って、仁王より人騙すの巧いと思う」
「騙しているとは思ってないからな」
「アイデンティティーの喪失じゃき」

 仁王のことは眼中にないようで無視したまま、口を尖らせて柳を軽く睨んだ。

「だから苦手なんだよ」

 そういえば、ちょっと前に柳が一番苦手だとぼやいていた。苗字の苦手といえば仁王か幸村くんだと思っていたのに、何故柳なんだろうと不思議だったが、今日その片鱗が見えた。俺にとっては何を考えているのかまったくわからない苗字のことを、柳は、一番理解しているのかもしれない。

 そう思うと、なんか、悔しくて仕方なかった。

 

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