あの子は自由人 | ナノ

右腕のそれと左頬

 慣れてきたといえば慣れてきたけど、とはいえ腕にずっと重りがついてるのは正直つらい。結局のところ、慣れない。

「ってな訳で、ジャッカルおごれよ」
「どんな訳だよ?!」

 だって、そうでもしないとやってられないじゃないか。六限の授業で凝り固まった身体をほぐすように、俺は思いっきり肩を回そうとした。…事件が起こったのはその時だ。


「おうぶっ」

 振り上げた右腕が、運悪く部室に入ってきた苗字に当たった。いや、腕ってより、何キロか入ってるパワーリスト(硬い)に、だ。しかも、顔面………。
 変な声をあげた後、彼女は即座にしゃがみこんだ。

「だ、大丈夫か!」
「わわ、悪い!平気か?」

 どうやら左頬に思いっきり当ててしまったようで、手で押さえて必死に痛みを我慢している。左目からぽろぽろと何粒か涙が転がり落ちる。相当痛いらしい。申し訳なさすぎる。何度も何度も謝罪の言葉を述べるが、苗字自身は小さく唸るだけだ。

「うう、大丈夫、痛くて、痛くて涙出てるだけ、大丈夫…」

 どうやら自分に言い聞かせているらしい。

 しばらくして落ち着いた彼女は、俺の申し出も断って、ひとりで保健室へ行ってしまった。
 なんか、本気でへこんだ。どうしよう。やってしまった感。そんな俺にジャッカルはドンマイ、と肩に手を乗せて気休め程度に慰めた。…おごってもらう気など既になくなっている。


 せめてもの詫びと、帰りにコンビニで季節限定のカスタードホイップまんをおごらせていただいた。

「有り難くいただくけど、そんな気にしなくていーよ」

 いつも通りへらっと笑って頬張りながら、切原なんか、打ったボールぶつけてきたし。仕返ししたけども。と、さらりと恐いことを言った。あくまで気にするなと励ましてくれているようだ。
 未だ左の頬は少し赤くなっていたが、酷い腫れではないようで少し安心している。普段はああだけど、苗字も一応女子だ。彼女が痛みに泣いてる時に、改めて実感した。なんだかんだ言って、俺たちより断然非力なんだ。

 

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